◎大人ブレイクと生徒の短いおはなし×3(not恋愛)
◎ブレイク組1人ずつと絡んでいきますが、ヒロインはどれも別人です



▽円堂監督

「お、みょうじ!お疲れさん」
「あ、監督」


練習が終わって片付けをしていたなまえに円堂はそう声を掛けた。彼の太陽のような眩しい笑顔と反して彼女の表情はどこか翳りがあるように感じる。「…どうした?なんだか浮かない顔してるなあ」そう言いながら円堂はちょいちょいとなまえを手招きし、自分の座るベンチの隣に腰掛けさせた。始めのうちは戸惑ったように視線を反らしていた彼女だったが「みょうじ、」と優しく名前を呼ばれれば口を開かざるを得なくなってしまう。


「…ねえ監督、変なこと訊いてもいいですか…?」
「? もちろん。」
「……あの、」


監督は大人になるの怖くなかったんですか…?
不安そうな表情で見上げてくる彼女にははーんと円堂はあることを悟った。昔、自分にもこんな時期があったなあなんて懐かしさを感じながら。ああ、若いっていいな。
直後、自分でも気づかないうちになまえの頭に手を置き、そのままぽんぽんと優しく撫でていた。当の本人は相当驚いたのだろう、目をまんまるに見開いている。


「怖いというか…不安だったさ。オレだけじゃない。みんなそうだったと思うぞ?」


まあ、オレの場合は周りからよく全然中身が変わってないって言われるんだけどな。そう冗談を飛ばせば多少は安心できたのだろう、ようやくなまえはくすりと笑った。


「だーいじょうぶだよ」


子供のまま大きくなるのだって悪くないさ。
ふわりと肩を優しく抱いて自分の方に引き寄せれば、なまえはちょっぴり恥ずかしそうにだけど少し甘えたように円堂の胸に顔を埋めた。





▽鬼道総帥

「どうした?」


先日、鬼道から頼まれた資料が完成しそれを届けにきたところ、すぐになまえは異変に気付かれた。感の鋭さもそうだが、この人はこんな1人のマネージャーのことまでよく見ているんだなあと感心するばかりだ。そんなことを思いながら彼女はちょっとした悩み──言い様のない不安、苛立ちを打ち明けた。


「……いろんなことがよくわからなくなっちゃったんです」
「成る程な。思春期特有の悩みと言ったところか」
「鬼道総帥にもそんな時期がありましたか?」
「……まあな」
「どうやってのりきったんですか?」


どうやってと言われてもな…、そう言いながら彼は昔を懐かしむように遠くを見つめた。長時間続いた体制から一息つくかのようにゆるりとネクタイを緩めて。「時間が解決してくれたとでもいうのか。まあ一言では言い表せんな」「時間が…?」「ああ。あとはある程度のことを割り切れるかどうか。それも大きいかもしれんな」「割り切る、ですか」鬼道の言うことを上手く噛み砕けないのだろう、なまえは先程よりうつむいてしまった。鬼道はそんな彼女を横目に、こんな時なんと声を掛けたらいいのか分からないと思いつつも自分が1番感じたことを素直にそのまま口に出してみた。


「だからといって焦る必要はない。お前はお前のペースでやっていけばいい」


いつもの堅さを感じさせないくらい優しく微笑んだ鬼道。根本的なことは何も解決していないのにその笑顔にひどく安心したなまえ。気付けばダムが決壊したかのように涙を溢し、何かまずいことでも言ったのかと珍しく鬼道が焦ったのはまた別の話だ。





▽聖帝イシドシュウジ
※ヒロインはシードの設定

「聖帝は自分は何がきっかけで大人になれたと思いますか」


唐突な質問にイシドは眉を潜めた。質問をした本人はというとイシドを見つめながらもまさに『心ここにあらず』の状態だ。「…何があった」「いえ、別に何もありません。ただふと思っただけです」そう言いつつもなまえの表情はどこか霧がかかったものであることに変わりはない。イシドはそれに気づきながらも特に触れることはなく淡々と言葉を紡いだ。


「きっかけなんていうものはわからない。気づいたらここまで来ていた。私だけでない。他の者に聞いても皆、その程度の答えしか返ってこないだろう」
「……やっぱり、そうですよね」


すみませんでした、忙しいのに変なこと聞いちゃって。さっきとは一変してははっと笑いながらなまえはイシドに背を向けた。そのままゆっくりとドアに向かっていく。自分の周りに上手く言えないものがまとわりついてくる嫌な感じ。それに僅かな苛立ちを覚え、自然と唇を噛み締めた。その時だった。「……ただ、」凛とした声が広い空間に響いていく感覚に思わず足を止めた。そのまま先程と同じように彼の方へと身体を向ける。


「誰にも将来に不安を持つ時期は訪れるし、どうしようもない孤独を感じる時があるのは確かだろう」


実際、私もここに来る前はそんな気分だった。
堅苦しい話とは裏腹にイシドの顔は至極穏やかなものだった。
その言葉の意味を理解しづらいのか、はたまた何故彼がこのタイミングで見たことがないくらい柔らかい表情をしているのか疑問に思ったからか、依然としてなまえからは不安が垣間見える。そんな彼女をイシドは隣まで呼び寄せて、何を言う訳でもなくただそっとその小さな頭を抱き寄せた。





大 人 子 供 の 境 界 線




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将来に不安を持つヒロインと成長した大人ブレイク(都合上修也は聖帝になってしまいましたが)。最近精神不安定な私が大好きなブレイク組に慰めてほしかっただけのおはなしです。果たして3人それぞれの個性は出せただろうか…。
私の文才では表現しきれませんでしたが、きっとブレイク組1人ひとりの頭の中には親友の顔が浮かび上がっていて、そんな青春時代を懐かしみながらヒロインに語りかけていると思います。