◎企画crazy candy!様に提出
◎名前変換なし
◎薄暗いおはなし。一部露骨な表現ではないですが微裏っぽいところもあるので苦手な方は注意。



彼と初めてキスをしたのは、彼が彼になった日のことだった。
肩まで伸ばした長い髪にところどころちらつく水色のメッシュ、深紅のスーツにじゃらじゃらとしたいくつものアクセサリー。どこかのホストを思わせるようなその姿は硬派な彼には全く似合わないもので私はなんとも言えない気持ちになったのだけれども、彼が“早くこの姿に慣れてくれよ”と呟いたものだからその時の私は結局何もいうことが出来なかったのを今でも覚えている。
漆黒のフードに身を包み彼から放たれるオーラにただただ気圧され。そしてそんな姿を見ていよいよ始まると身も心も引き締まるような思いをしながら私は彼の前へと立った。


「…覚悟はいいな」
「はい」


何があってもこの革命だけは絶対に成し遂げるぞ。
その言葉の直後に触れたやわらかいくちびる。それは私達を繋ぐ約束の口付けとなった。





二度目のキスは、彼に1度だけ抱かれたとある夜のこと。
頼まれていた書類が完成し、チェックのために聖帝のところに訪れていた私は部屋をあとにしようと背を向けた時いきなりその場に押し倒されたのだ。それは聖帝・イシドシュウジが誕生してからその時までそういった行為を全くしてこなかった二人の関係が彼の性急な行動でいとも簡単に崩れ去った瞬間だった。
急なことだったからか久しい行為だったからか、あるいは見たこともないくらいがっついてくる目の前の彼にとてつもない恐怖を感じたからか、私は止めてと懇願したけれど彼の熱い吐息と切ない黒目がちな瞳を見たらまたあの時と同じように何も言えなくなってしまって。そしてそんな状態になったのをいいことに彼は私に噛み付くようなキスをしてきたのだ。二度目となるそれはとても苦しくて同じくらいに切ないものだった。





そして、三度目は。


「…本当に、いいの?」
「ああ。お前にしか頼めない」


私の目の前には鏡とイシドさんと風呂上がりでちょっとだけ濡れたイシドさんの髪、そして右手にはハサミ。そう、私は彼に断髪を頼まれていた。断髪と言っても美容師の資格なんて当然の如く持っていないので毛先のメッシュをほんの少し切るだけでいいとのことなんだけれど。そんな中途半端なことをするくらいなら早くお店に行けばいいのに、何故そこまで私に頼むの?不思議に思ってそう訊ねれば彼は敢えてあの人の口調で、凛とした声でこう言うのだ。


「革命が達成された今、これでようやく私自身と別れることができる。私の全てを見てきた君に私という存在を、その証を絶ってほしいのだ」
「…………」
「どうした、早くしろ」
「ねえ、」


なんだと口を開く前にそっとその薄い唇に口付けた私。同時にシャキ、と小気味よい音が周りに響いた。はらはらと落ちてゆくエメラルドグリーンを薄目で見つめそっと距離を開ければそこには予想通り目を見開いた彼の顔があって、そんな彼に今度は私からこんな言葉を送るのだ。



三度目のキスは「さよなら」のキス
今まで本当にお疲れさま。
そして愛しきあなたへおかえりなさい



柔らかく微笑んで“ただいま”と言った彼に心底安心したのはいうまでもないだろう。





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企画様に提出。テーマは「聖帝愛」でした。
聖帝、イシド、豪炎寺+10オンリー夢企画ということでみんな好きな私は誰で書こうか本当に、ほんっっっとうに悩みました…!結局出した答えは根本はイシド、たまにちらつく豪炎寺のおはなし(笑)さらには珍しく薄暗い話からラストは私らしくハッピーエンドで締める!という新しい試みに挑戦してみました。そのため敢えて「彼」などの言葉を多く使ってちょっぴりややこしくしています。その時一体誰を差しているのかはじっくり読んで捉えてみてください。…国語の問題みたいでごめんなさい。笑

素敵な企画に参加させていただきありがとうございました!