◎主催夢企画に提出


何故私は憧れだったあの豪炎寺くんに抱き締められているのだろう。何故、耳に届く彼の心臓の音も私に負けないくらいドキドキしているのだろう。わけがわからない。わかるはずがない。だって私、さっきほんのちょっと彼と目が合っただけなんだもん。


「ご、豪炎寺くん…?」
「……何故だ」


何故。それを聞きたいのは私の方だ。そう言いたいのに言えないのはきっと豪炎寺くんが私をさらに強く抱き締めたから。彼がいつもつけている制汗剤のシトラスのにおいと練習後でちょっと混ざった汗と土のにおいにときめいて胸が苦しくなったからじゃない、きっとそのはず。


「…なんで私を抱き締めるの?」
「たがが、外れたんだ」
「たが…?」
「…逆に聞く、何故いつもお前は俺を見つめる」
「……豪炎寺くんが、私を見てくるからだよ」
「違う、お前が俺を見ているんだ」


あんなに純粋で真っ直ぐでだけど何かを期待するような目で見つめられたら俺はどうしていいかわからなくなる。掠れた声で確かに豪炎寺くんはそう言った。だけどそれは違う、豪炎寺くんがまるで試合の時のような熱い瞳を私に向けてくるから、だから私はどうしたらいいか戸惑い、そして変に期待してしまうんだ。きっかけは私からじゃない。やっぱり豪炎寺くんからだよ。
見た目以上にしっかりとした彼の胸に頭を預けそう言葉を紡げば、豪炎寺くんはそれ以上は何もしゃべらなくなった。2人の周りを静寂が包み込む。どきどき、どきどき。依然として鳴り続ける胸の音だけが煩いくらいに聞こえる。それは果たして私のものなのか彼のものなのかあるいは互いのものなのか、それすらももうわからなくなっていた。
しばらくの沈黙の後、突然豪炎寺くんはそっと私の身体を離した。だけど視線だけは変わらず私を捕らえている。どうしよう、逸らすことが出来ない。


「…もう少しだけ、たがを外していいか」
「………」
「……好きだ、なまえ」


黒曜石のように綺麗でそれでいて切なく揺らめく黒目がちな瞳に見つめられれば私の頬はさらに赤みを増した。きっと頬だけじゃない。首も耳も真っ赤なはずだ。この顔の赤みは私を真っ正面から照らす夕陽のせいだと信じたいけど、彼の頬も赤みがかっているのを見て確信した。もう逃げられない。もう誤魔化しは通用しないみたいね。
あんなに淡くて儚くて、まるで陽炎のようだった2つの思いが今、ゆるりと混ざり合い溶け合った。きっともう私達の熱情を止めることなんて誰にも出来はしないんだろうなあ。



ハローハロー僕のハニー
もう決して君を離しはしないさ