「ねえ君、今1人?」


真っ暗になった街を下品なネオンがギラギラと照らす頃、私はスーツを着た2人の若い男に声を掛けられていた。彼らのほんのり色づいた頬と少々定まらない足元を見て、とりあえず打ち終えたメールを素早く送り片手で携帯をパタンと閉じる。ああ、厄介なのに絡まれた。そう思いながら私はいかにも面倒くさそうに溜め息を溢すのだ。


「こんな時間に1人で外にいるってことは、もしかして君も飲み会だったの?」
「実は俺らもさっきまで会社の同僚と飲んでたんだけどさー」
「あ、そうだ!これから二次会でカラオケ行くんだけど一緒にどう?」


明らかに距離を詰めてきたためか、急にアルコール独特の臭いが私の鼻を掠めた。別にお酒はきらいじゃない。実際、この人達がいうようにさっきまでサークルの集まりでお酒を飲んでいたのだから。だけどこの状況のせいだからだろうか、不愉快極まりないという思いが私の中を占めていく。それはどうやら顔にも表れていたようだ。


「あ、ごめんうざかったかな?」
「だけど俺ら、別に変なことはしないよ?」
「バカ、んなこと言うから警戒されんだよ」


ゲラゲラと楽しそうに笑う姿を見て、いい感じにお酒が入っていることを察した。声だって随分と大きいし、テンションだってやたら高い。ああ、ほんとにうざったい人達。彼、早く来ないかなあ。






「なまえ、お待たせ」


キーッと止まった真っ赤なスポーツカー。運転席から出てきた彼の姿を確認すれば、私は遅いよと笑いながら駆け寄っていく。


「すまない。なまえからのメールも確認したんだが、思ったより道が混んでてな」
「ううん、大丈夫だよ。お迎えありがとう、修也くん」


ガチャリと開かれた助手席のドア。どうぞと片手で動作を促す姿は様になっていてとにかくかっこいい。さっきまであんなに鬱陶しかった街の光も修也くんがいるだけで綺麗な景色へと変化する。きっとそれは彼の存在が周りに負けないくらい輝いているから。ネオンのギラギラした光ですら霞んで見えて、結果的にお洒落な淡い光の背景が出来上がるんだろうなあ。
座席に座る直前、修也くんのくすりと笑う声が聞こえた。ちらりと横目で見てみれば、案の定ぽかんという顔をしたあの人達に笑いかけていて。そして修也くんがドアをバタンと閉めたのと同時に、今度は私が彼らにそんな笑みを向けるのだ。

さてと、私そろそろ行くね。お兄さん達は2人で寂しくカラオケを楽しんでいらして?私は私の方で素敵な彼氏と夜のドライブを楽しむから。それじゃあバイバイさようなら。



ハイヒール高らかに鳴らして