り、

後ろからやさしく包み込んでくれるたくましい腕。それを自分の方へと引き寄せて視線をそっと横に向ければ、そこにはだいすきな彼、豪炎寺くんが私の肩に顎を乗っけた状態で柔らかく微笑んでいる姿があった。ああ整った顔がこんな間近にあると思うとちょっぴり緊張してきちゃう。どきどき、どきどき。彼にまでこの心音が聞こえてしまうんじゃないかと思うと速度がさらに増したような気さえした。そんなことを思っていれば普段より甘さを帯びた瞳と私のそれが対峙して、必然的に至近距離で見つめ合うことになった。なんだかちょっと照れくさいな。だけど同じくらい幸せな気持ちで満たされいくのもわかる。そうしていつものようにえへへと笑って私は自分の気持ちを素直に表すんだ。
何気ないこの時間が、あなたを身近に感じるこの瞬間が私はだいすきなの。



り、
間近で見るその笑顔に俺の心臓はドキンと高鳴った。頬に赤みがさすのを感じ、見られるのが恥ずかしいと思った俺はそっと視線を反らす。それが誤解を生んだのだろう、“豪炎寺くん…?”と不安そうな声を洩らす彼女に気づいて。しまったと思ったのと同時に変なことですれ違うことがないように慎重に頭を働かせて。そうして出た答えに我ながら納得した俺はひとつ息を吐いてから再び優しい笑みを彼女に向けた。直後ぽかんとした彼女が可愛らしくて、ただ単に愛しいと感じた俺は先程よりも力強く抱き締めてさらに距離を詰める。そのまま目の前にある形のいい耳にこんな言葉を囁くのだ。
すきだよなまえ、愛してるよ。



り、
ずるいよ豪炎寺くん。このタイミングでそんなことを言うなんて。私は自分の頬に熱を感じた。その熱が耳まで伝わっていたのだろう、彼ったら意地の悪い声で随分と真っ赤だななんて揶揄してくるの。自分だってさっき赤かった癖に、そう指摘すれば何のことだ?って惚けられちゃうし。もう、私はちゃんと見てたんだからね。そう思いながらも口に出さない(正確に言えば出せなかった)のは私とは異なる洗剤の香りが鼻腔を擽ったから。これ、豪炎寺くんの匂いだ。そう思っただけでもうくらくらしてきちゃう。顔余計に赤くなってないかなあ。(同時にこんなことを考えてしまう私は自分が思っている以上に彼のことがすきなのかもしれない。)
全身を彼の匂いで包み込んでもらえるのは、きっとこの世界で私だけ。



あ 

な 

た。
急に黙りこくった彼女に俺はそっと声を掛けた。直後“豪炎寺くんの匂いがするの”なんて安心したように笑う彼女に再度俺の胸が跳ねたのはいうまでもないだろう。全く、狡いのはどっちなんだ。そう思いながらもなお腕の力を弱めないのは、恥ずかしいほど赤くなった自分の姿を見られたくなかったから。距離をあけたら確実に興味深げな視線を受けるのは目に見えているからな。
だけど相当な熱を抱えているのは他でもなく自分が一番よくわかっていて、なまえにそれが伝わっているのも自覚していて。それでも離れないでいるのは単純に俺が彼女から離れたくないからかもしれないな、なんて柄にもないことを思った。
ああ、幸せってこういうことなのかもしれない。



何が言いたいかというとね?
お互いがお互いをこれでもかっていうくらいだいすきっていうこと。