「こんなにも誰かを愛しく思ったのはなまえが初めてで、きっとそれはこれから先も変わらないと思う」


それはある日の昼下がりのこと。ふと思ったことを口から紡げば、俺の腕の中にいた彼女は驚いたように目を見開いた。え、急にどうしたの?熱でもある?そう言いながら額に当てられた小さな手をそっと包み込み慈愛に満ちた表情を向ければ、一体どちらが発熱しているのだろうか、そのくらいの勢いでなまえの顔に一気に赤みが差した。


「えっと…」
「ん?」
「…!き、今日の修也くんなんかへんだよ!」


一瞬でも瞳をそらされたことがなんだか悔しくて、いつもより甘い視線で顔を覗き込むと、なまえはわたわたと必死になって俺から逃げようとしはじめた。その動きを片手で簡単に封じ込め、もう片方の手を再度きゅっと握り直せば。


「つかまえた」


完全にホールドアウトされたなまえ。湯気でも出るんじゃないかというほど真っ赤になった姿が可愛くて、ついクスクスと笑いをもらしてしまう。当の本人は少し拗ねてしまったようでぷくっと頬を膨らませているのだが。


「修也くん、ちょっと意地がわるい」
「そうか?」
「だいたいさ、長い人生のなかの24年分しか生きていないにそこまで断言しちゃっていいの?」


呆れたような困ったようなでもどこか照れ隠しのような、そんな表情をなまえは浮かべた。答えの代わりに緩やかに頭を撫でてやれば、俺の思いを察したのだろう、ほんの少し甘えたように擦りよってくるのがまた可愛い。たまらない、な。彼女の額にちゅっと小さなキスを落としながらそんなことを思った。


「えへへ…」
「嬉しそうだな」
「うん。…あたまね、なでてもらうのすきなの」
「安心するのか?」
「あたり。修也くん、よくわかったね」
「なまえのことだからな」
「…子どもみたいってわらわないの?」


その言葉にきょとんとする俺。一体、どこに笑う必要があるのだろうか。むしろ俺は甘えてくれたことが嬉しくて、ついつい顔がにやけているのだが。


「…相変わらずだね」
「? どういうことだ?」
「周りの評価や世間体じゃなく、私自身をみてくれる。それは昔から変わらないねってこと。」


そんな修也くんがだいすきだよ。
直後、頬に感じた柔らかさに、そしてえへへと照れくさそうに笑う彼女の笑顔に、してやられた、そう思った。果たして狡いのはどちらなのだろう。

なまえからの不意討ちに少々気恥ずかしくなった俺は赤く染まった頬を隠すように彼女の首筋に顔を埋める。そのとき、ふわりと鼻腔を擽った彼女特有の甘い香りに、ときん、胸が高鳴ったのはまた別の話だ。



凾ニにかくあなたの全てが好き
豪炎寺修也(inzm)