こつん、と額を合わせられたのとともに視線を少しあげてみればそこには私のすきな琥珀色の瞳があった。至近距離であっても全く動じず、それどころかいつも以上にまっすぐ私を射抜いてくるせいで胸がドキンと高鳴るのがわかる。そのまましばらく見つめ合っていればなにを思ったのか突然彼はプッ、と小さく吹き出した。


「なまえっち、緊張しすぎ。身体ガチガチっスよ」
「だって、仕方ないじゃんか…」


目の前にこんなかっこいい顔があるんだもの。それで緊張しないほうがおかしいよ。そう吃りながらも必死になって伝えれば、黄瀬くんはさらに可笑しそうに笑った。モデルの時の作り笑いじゃなくてありのままなその笑顔に私の心拍数がどんどん上昇していくのがわかる。なんだかくらくらしてきちゃった。クスクス笑う表情までこんなに綺麗だなんて、なんだかずるいなあ。


「…ねぇなまえっち、キスしてもいいっスか」


そんなことを思いながら黄瀬くんに見惚れていれば私の反応が遅れてしまうのは目に見えていて、あえてそこを狙ってきたのだろう、気づけば私と彼の距離は0cmになっていた。全く、相変わらずちゃっかりしてるんだから。私まだいいよなんて言ってないんですけど。そう心の中で苦笑を漏らしながらも黄瀬くんを突き放さないのは額同士をくっつけあってからずっと私が淡い期待を抱いていたからだろう。
はじめはやさしく触れるだけ、次第にいとおしさが伝わるような啄むキスに力が抜けていくのがわかった。この瞬間、私はいつも黄瀬くんからの愛を感じ、しあわせな気分に満ち足りる。そうして唇が離れれば、今度は甘えたようにたくましいその胸板にぐりぐりと頭を押し付け、上目遣いに彼を見上げるのだ。


「ホント、相変わらず可愛いっスね」
「黄瀬くんはかっこいいよ」
「…ごめん、もう限界」


慈しむような表情を浮かべ、ソファーに私の身体を沈めた彼。いい?なんて野暮なことは聞かないで。この胸の音を聴けば答えなんて、わかるでしょう?
こんなに胸が高鳴るのも相手が黄瀬くん、あなただから。私のすべては、あなたのもの。だからね、もうずっとずっとわたしを離さないで。あなたで私をもっともっといっぱいにして。
消えてしまいそうなほど小さい声で名を呼べば、なまえっち大好き、そんな甘い台詞を表すかのように彼は再びキスを落とした。甘美なる口付けと心地よい体温に身を任せ、私はそのままそっと目を瞑る。

ねえ黄瀬くん。私も大好きだよ。
この苦しいくらいのいとおしい思いがちゃんとあなたに届いているといいな。すでに熱に浮かされ始めた頭の片隅でそんなことを思いながら、ゆっくりと目の前にある大きな背中に手を回す。そのときに感じた彼の鼓動が私と同じくらいに速かったのはもう言うまでもないだろう。



剄わせる額、唇、鼓動、離さないで
黄瀬涼太(krk)
130119/誰そ彼さま