日本のトップアイドルとして駆け抜ける彼の日常はとても多忙だ。1日なんて一瞬でおわる。おやすみだってなかなか取れない。だから一年に一度の今日この日にたまたま仕事が早く終わるなんて、きっと神様がわたしたちにご褒美を与えてくれたんだろうなってそう思わずにはいられない。



穏やかな静寂がふたりを包んでいた。トキヤがソファーにもたれかかる。彼に後ろから抱きしめられるように座るわたし。お気に入りの座り方でカチ、カチ、カチ、と確かに刻まれていく時の音を聴く。彼の体温を感じながらふたりきりの部屋でただのんびり過ごす、至極の時間。
なんて贅沢なんだろう。しあわせで胸がいっぱいだ。溢れてくる思いを伝えるかのように、わたしは彼の腕に頬を寄せた。ふっ、とトキヤがやわらかく笑うのを感じる。それだけでもう嬉しくてたまらないのだから、わたしはきっと自分で知るより単純なのだと思う。


「綺麗な色ですね」


彼の細い指がわたしの指先に触れた。濃紺の中で瞬くきらめき。まるで夜空を思わせるようなそれはこの間街をぶらぶらしていたときに見つけたマニキュアだった。


「光の当たり方で雰囲気が変わりますね」
「そうなの。みていて楽しいでしょ?」
「ええ。微妙なニュアンスが美しい」
「なんだか、トキヤみたいなの」


どこかせつなくて、それ以上にあたたかくて、そしてやさしい。
そんな彼の世界観が大好きだった。

どんな舞台でも人を魅了する。自分の中の魅力を最大限に発揮する。人の心をときめかせ、そして掴んで離さない。
紛れもないアイドルとしての素質。しかし、それは彼の日々の努力の賜物でもあることをわたしはちゃんと知ってる。

わたしの指先に広がる夜空はそんなトキヤの姿を彷彿とさせる。だからこれは、わたしのお気に入り。
慈しむように軽く爪を撫でる。すると耳元に掠れたセクシーな声が響いた。


「…随分と可愛らしいこと言いますね」


緩く繋いだ手を口元に寄せられた。軽いリップ音と共に温もりが訪れる。擽ったくてわずかに身を捩れば、こら、と緩やかにでもたしかに拘束される。ついには至近距離で目が合った。ここまできたら意思は関係ない。あとはもう、なすがままだ。


「…誕生日、おめでとう」
「ありがとうございます。なんだか…照れ臭いですね。では、照れ臭いついでにもう一つ」


これからも私らしく輝き続けるアイドルであることを今宵、貴女に誓います。


どちらともなくゆっくりと目を閉じて、彼の薄い唇とそっと触れ合って。

そこから先は、ふたりきりの秘密。
窓の外ではわたしたちを見守るかのように、きらりと星が瞬いていた。


小瓶に詰めたきらきら星
一ノ瀬トキヤ (utpr) / Happy birthday!
150806 / title by メルヘン