◎企画 ぐだぐだ 様に提出
◎時間軸等は一切無関係なお話です



「うわーん、南沢さーん!」
休憩中、タオルで汗を拭いているといきなり後ろから泣きべそを掻くみょうじが抱きついてきた。飛び付いてきたという方が正しい表現かもしれない。また面倒なことになりそうだな…。俺はいつもの如く盛大な溜め息を吐いた。
と、言いつつもこんなことは日常茶飯事なので俺は落ち着いて対応する。さて、今日はどうしたものか。とりあえず、腰に貼り付くみょうじを引き剥がしてみる。


「……で、今日は何?」
「聞いてくださいよ!休憩時間に栄養補給しようと思ってバッグから出しておいた『トリュフの森』、倉間が全部食べちゃったんです!」


私の大好物なのに!そういう彼女の手には、確かに言葉の通り空っぽになった箱があった。大好物というだけあって、みょうじの目には今にも零れ落ちそうなほど涙が溜まっている。余程ショックだったのだろうか。「みなみさわさーん…」「あーはいはい」俺が腕を広げればすかさずみょうじは飛び込んできた。ひーん、なんて漫画みたい泣くこいつに苦笑しながらも背中はぽんぽんと叩いておく。
ちなみに『トリュフの森』とは球状のクッキーに二層のチョコがコーティングされた、中高生を中心に人気の高いチョコレート菓子のことだ。
アイツ、この短時間によくこれだけ掻き込んだな…。身体はちっせぇ癖に胃袋はブラックホールなのか?それとも甘いものは別腹ってか。どちらにせよ、すぐ近くで口の周りを食べ滓だらけにしているアイツに声を掛けてみる。


「おい倉間ー、なんか言うことねぇの?」
「……みょうじ」


珍しく素直な態度に拍子抜けするも、漸く成長しつつあるのかと呆れたような気持ちにもなる。俺はポケットからあるものを取り出して倉間にちょいちょい、と手招き。俺が何をしたいのか分からないのだろう、きょとんとしているこいつの口の周りをたった今出したティッシュでくいっと拭き取ってやった。ついでに涙と鼻水で汚れたみょうじの顔も別のティッシュで拭いてやることにする。「ほれみょうじ、ちーん」「チーンっ!」全く、俺はお前らの母ちゃんか。
とりあえず、準備は整った。2人を向かい合わせてから俺は少し離れた場所で腕を組み、柱に寄りかかりその様子を伺う。さあ、あとはお前ら次第だぞ?


「あのな、みょうじ」
「うん、」
「…俺さ、」
「…うん」


「…お前が太るのを阻止してやったんだ、感謝しろ!」
……馬鹿倉間。期待した俺も馬鹿だった。額に手を置く俺を尻目に、そのままいつも通りの口喧嘩が始まった。駄目だこいつら全く成長してねぇ。こうなるとさすがの俺も手がつけられないのは目に見えているので、とりあえずこのまま現状維持とさせてもらう。


「……ふざけんなよ倉間!」
「ふざけてませーん。オレは至ってマジでーす」
「その言い方がふざけてるんだよこの鬼○郎が」
「あァ!?誰が鬼○郎だって!?」
「お前しかいないだろ!あんた本当に左目あるの?」
「あるわ!つーか、栄養補給とか言ってマネージャーのみょうじさんは選手のオレよりエネルギーを消費しないと思うので無駄な脂肪になると思うんですがー?」
「じゃあ何?食べたから身長でかくなるっていうの?クラス1ちっさいく・ら・ま・く・ん?」
「てめぇ…!第一、お前があんなところに置いとくのが悪いんだろ!」
「私の鞄の隣なんだから私のだってわかるでしょ!?だいたいあんたのものじゃない時点で一言声掛けなきゃダメだよね!」
「特訓で腹減ってたんだよ!ちなみにオレは『トリュフの森』より『ワラビの谷』の方が好きなんだ、今度買うときそっちにしろ!」
「お前の事情なんて知るか!だいたい『トリュフの森』の方が『ワラビの谷』より高級感溢れてるもんねーっ!」
「ハァ?お前『ワラビの谷』ナメんなよ!」


お前ら幼稚園児か。そう突っ込まずにはいられないこの低レベルな言い争い。何なんだこの口論。重要なので念を押して言っておく、今のこいつらの話激しくどうでもいい。
ちなみに『ワラビの谷』とは『トリュフの森』の姉妹品で、棒状のクラッカーにこちらも二層のチョコレートがコーティングされたもの。こちらの方が『トリュフの森』よりサクサクした食感が楽しめるのが特徴だ。
……だんだん観点までもがずれてきているような気がするのは俺だけか?


「南沢先輩、あの、いいんですか…?」


あまりに酷い空気になってきたと感じたのだろう、1人の後輩が不安そうに俺の元にやって来た。が、生憎俺はその不安を拭えるようなことは言えないし、あそこまで険悪な雰囲気出されちゃ手の施しようがない。とりあえず、ごまかしではあるが適当にこんなことを言っておいた。


「心配するな、天馬。あれはいつもの痴話喧嘩だ」
「え?…あ、なるほど!なんだかんだで結局、倉間先輩となまえ先輩って仲がいいんですね!」
「ああそうだ。さあ、休憩は終わりだ。俺達は練習に戻ろう」
「はい、先輩!」


素直な後輩は俺の言うことを大変素直に受け止めてくれた。うん、よろしい。相手がこいつで助かった。「みょうじ、倉間、練習再開だぞー、ほどほどにしとけよー」さっきから後ろで黒いオーラを放った円堂監督が満面の笑みでお前らのこと見てるから。その言葉は飲み込んでおいた。言ったら最後、俺の命がないような気がしたから。だって監督、今後ろに化身出してるじゃないですか。鉄拳どころか鉄槌喰らわす気ですよね?……ああ決めた。俺、監督にだけは何がなんでも逆らわないでおこう。
数分後、2人分の凄まじい叫び声がグラウンドに木霊したのは言うまでもないだろう。





──数日後の放課後。

「南沢さん!コイツマジで理解出来ません!うどんと蕎麦なら、蕎麦の方が格段にウマいっすよね!?」
「うどんの方が数万倍美味しいですよね!ところで先輩は『黄色いきつね』と『青いたぬき』、どっち派ですか!?」


お前らもう全力で帰れよ。
犬猿の仲なこいつらにいつまで振り回されればいいのだろうか、俺、南沢篤志の受難はまだまだ続く。




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企画様に提出。私が選択したお題は「喧嘩」ということで、会えば喧嘩ばっかりな倉間と夢主、そして2人のオカンな南沢先輩をお届けしました。いつもみたいに甘い話じゃなくて実はこんな感じのお話も大好きです◎

ちなみに「トリュフの森」と「ワラビの谷」、「黄色いきつね」と「青いたぬき」は某チョコレート菓子と某カップ麺文字ってます。あ、気づいてましたかそうですか。トリュフとワラビって差ありすぎとか黄色いきつねってまんまとか「青いたぬき」=某ネコ型ロボットとか思ったら負け。

素敵企画に参加させていただきありがとうございました!