◎わたしのお兄ちゃん
「ねえ、君帝国の生徒でしょ?」
尾刈斗戦当日、正門の辺りで見覚えのある1人の男の子を発見した。
中性的な顔立ちに綺麗な銀の髪、眼帯が特徴的な男の子。「佐久間次郎君…だよね?」
相手は私が誰だか知らないのだから、そりゃ警戒心むき出しな訳で。
「お前は誰だ」
「菊地真央。雷門サッカー部の新人マネージャーだよ」
「…何故俺のことを知っている」
「元木戸川清修のサッカー部マネージャーで主に情報収集を担当してたから。帝国のストライカーとして、そして参謀役として大活躍なんだよね」
「……もしかして、君が豪炎寺の彼女か?」
噂で聞いている。豪炎寺を追いかけて雷門にわざわざ転校してきたと。
無表情でそう淡々と話す彼の心情は残念ながら上手く汲み取れない。
いや、別に何かの悪巧みの為に私を狙っている訳ではないんだろうけど。って、そんなことはどうでもいいんだ。
「ねえ、鬼道有人は今日来ないの?」
「……鬼道とどんな関係だ?」
「あれ、聞いてないの?」
うーん、言っちゃまずかったかなあ。っていうかなんでこんなにピリピリした空気なんだろう。私、別に佐久間くんに喧嘩売ってる訳じゃないんだけどなあ…。
視線を斜め上に上げ頬をポリポリと掻いていた、その時だった。
「佐久間、何をしている」
佐久間くんの後ろから聞こえた声。きっと相手は死角になって私のことが見えていないんだろう。
それをいいことに、私は佐久間くんの横をするりと通り抜け、その声の持ち主の前に立った。
「……!」「久しぶり」驚いたような顔をした後、一瞬口を開いたと思ったらすぐに閉じてしまった。
話す気はないってことかな?だったら、
「……私が豪炎寺修也の彼女だよ」
「!、………」
得意のポーカーフェイスが僅かに崩れた瞬間を私は見逃さなかった。
いや、いくらゴーグルで瞳が見づらいとはいえ動揺した空気は隠せてなかったと言った方が正しいだろうか。
なんだ、そこまでは情報掴んでなかったんだ。
「修也を支える為にお父さん説得してまでここにきた。今は春奈の家にお世話になってるよ」「………」
怒っていると誤解を招かないように出来るだけ穏やかな声で伝えなきゃいけないことは伝えたはず。あとは。
ゆっくりと彼に近づきそして横を通りすぎる瞬間、私はそっと耳打ちした。
「私は何か言えないような理由があったと思ってる。だから別に有人のこと恨んでないよ。また近いうちにちゃんとお話しようね」
「鬼道、さっきの子と知り合いか?」
「………いや、何でもないさ」
まさかあいつが豪炎寺の彼女だったとは、な。
彼がそっとため息を吐いたことなんて私は知る由もなかった。
きっと何か考えがあって今まで一切連絡をくれなかった私の片割れ、兄・有人。
そんな兄に裏切られたと、そして勝利のみを目指すようになった有人に心底失望している春奈。
2人の思いは分かるけど、どう動いたら上手に誤解を解けるかわからない私。
事情が事情なだけに、絡み合う糸はなかなかほどけてはくれない。うーん、難しいな。
……あ、佐久間くんとも結局最後まで微妙な雰囲気のままだった…。今度会ったら彼とも誤解を解かなくちゃな。
私だってこう見えてそこそこの苦労はしてるんだからね!