◎転校生がやって来た!
※春奈→ヒロイン視点



「チーッス!俺、土門飛鳥。一応ディフェンス希望ね」


ついにフットボールフロンティアに乗り込めるぞー!と部室で意気込んでいた時のこと。顧問の冬海先生が対戦校を伝えに、そして1人の入部希望者を連れてやってきた。どうやら木野先輩の知り合いで転校生らしい。うーん、世間は意外と狭いんだな、なんて。


「ね、お姉ちゃんもそう思わない?」
「……うん」
「…?」


あれ、いつもなら“春奈さーん、私は『そう』の内容聞いてませんよー”って突っ込んでくれるところなのに。変に会話が成り立っちゃった。というか何かを考え込んでる?どうしたんだろう、なんかいつものお姉ちゃんらしくない。


「お姉ちゃん、どうしたの…?」
「え?…あ、いや野生中とどうやって戦うかちょっと考えてたの」
「え、もう!?」
「うん、木戸川の時に戦ったことあるからある程度の情報は持ってるよ」
「すごい…!さすがはお姉ちゃん、常に先を見越してる!」
「えへへ、ありがとう。……」


お姉ちゃんのこういうところは先輩マネージャーとして本当に尊敬できる。そういえば木戸川清修の時から情報収集はお手のものだったって豪炎寺先輩言ってたのを聞いたことあるような気がする。きっとその情報生かしていろいろ課題とか対策とか考えていたんだろうなあ。うん、私だって新聞部の経験生かして頑張らないと!少しでもチームの役に立てるようにいいところは吸収していかなくちゃ!


「特に高さ勝負ならめっぽう強い」
「なんだよ新入りが偉そうに」
「前の学校で戦ったことあるからね」
「……!」


この時お姉ちゃんがハッとした顔をしたことに私は気づいていなかった。




▽ △ ▽ △




次の試合、カギを握るのは『高さ』。そう、野生中はまさに字の如くとても野生的なチームだ。


「前戦った時も苦戦したよね」
「ああ、そうだったな」
「…これで高さを攻略する必殺技が生み出せるのかな……」
「……………」


修也のこの無言がすべてを物語っているだろう。
正直なところ、このままではマズい。必殺技を生み出すどころか必殺技のヒントすら見出せないだろう。それに雷門はまだチームとして始まったばかり。基礎体力やプレー、根本的なところでも差があるはずだ。そこも考えていかなきゃいけないのに、果たして当日までに間に合うのだろうか。私はこのチームをどうサポートしていけばいいのだろうか。課題は山積みだ。


「(それに……)」


私はベンチのところにいる彼──土門くんに視線を向けた。
みんなは別として、そして修也は気づいているかわからないけれど私は知っている。彼がどこから転校してきたのかを。
彼は、元帝国の生徒だ。実際に本人の口から野生中とは前の学校で戦ったことがあるという話を聞いたし、帝国は野生中と去年の地区大会決勝で戦っていたはずだ。春奈には申し訳ないけれど、私はあの時対策なんか考えていなかった。そう、見覚えのあった彼を一体どこで見たのかを思い出していたのだ。
一体、何のために帝国の生徒が雷門にやって来たのか。そして彼は私の兄、鬼道有人と繋がりがあるはず。このピンチでありチャンスをどう生かすべきか、私はここ数日でそんなことばかり考えていた。


「………」
「……真央?」
「………」
「…真央、」
「え、う、はい!」


急に肩を叩かれ驚いた私。思わず変な声を上げてしまった。これには叩いてきた本人もびっくりしたようで数回目をぱちぱちと瞬かせ、直後口に手を当てくつくつと笑い始めていた。「ちょ、そんなに笑わないでよ…!」「すまない、だが…っ」「もう!」しばらくすると修也は一通り笑い終えたようで、一つふぅと息を吐いてからゆっくりと身体を私の方へ向けた。状況がいまいち掴めず、一体どうしたのかななんて思いながら私はじっと彼を見るばかりだ。そんな私の視線に気づいたのか彼は同じように私をじっと見つめ返してきて。そのまま何を言うわけでもなくただ私の頭をぽんぽんと優しく撫でてきて。とたんにさっきまでムスッとしていたのが嘘のように穏やかな気持ちになった。それは表情にも表れていたようで突然修也はこんな言葉を放ってきたんだ。


「やっとリラックスしたみたいだな」
「え…?」
「マネージャーはお前だけじゃない」
「うん、……あ…」


もしかして、修也は私のことを心配してくれていたのだろうか。このチームに入ったばかりでどう動いていいか戸惑っていた私のことを。気づいていたのだろうか。誰にも言えない焦りみたいなものがあったことを。
だからちょっとでも安心できるようにこうしてみんなに気づかれないところで諭してくれて。いつもみたいに優しく接してくれて。なんだろう、肩の力が一気に抜けたような気がした。


「もう大丈夫か?」
「…うん、大丈夫。ここは木戸川じゃなくて雷門、きっと雷門には雷門のやり方がある」


私には秋も春奈もいるんだから1人で何でもやろうとする必要はないんだよね。
そう言って微笑めば同じように修也も微笑んでくれた。あ、この笑顔好きだな。


「…あのさ、修也」
「ん?」
「ちょっとだけ甘えてもいい?」
「ああ、もちろんだ」
「…キスしてほしい、な」


ユニフォームの裾をきゅっと掴んでちらっと上目遣いで見上げれば修也はフッと笑ってくれた。そのまま少しずつ距離を縮めてくる。私がゆっくり目蓋を落としたのを見計らって、彼は額にかかる髪をそっと退かしてからそこに口づけた。ちゅっと可愛らしいリップ音がなる。そのまま至近距離で見つめ合えばすごくすごく幸せな気持ちになった。


「…これで元気になったか?」
「うん、なった。ありがとう」


じゃあ俺そろそろ戻るなと彼が言ったの合図に少しずつ元の距離に戻る私達。ちょっぴり名残惜しいなあなんて、もちろん思った。だけどその気持ちは秘密にしておく。きっとそれは修也も同じだから。言葉にしちゃうと離れられないのは目に見えているから。


「…真央、あとな」
「?」
「お前が最近マネージャー業以外で何か考え事をしているのは知っているが」
「…うん」
「……敢えて聞かないでおくな」
「え?」
「上手くは言えないがおそらくそのことを考えている時のお前、何かいつもとは違う感じがしたから」
「どういうこと?」
「悩んでいるが何か大切なものを守りたいからこそというか、夕香の事故があってすぐの時の俺と似ているというか…」
「………」
「…あの時お前が見守っていてくれたことに俺は感謝しているから」
「……!」
「だから俺も見守る。でも本当に辛くなったら俺を頼れよ」


本日2回目になる『ありがとう』の言葉。それが私の口から出ることはなかった。すでに彼が私の前を行き、みんなの練習に合流していたからだ。帰り道に改めて言おうかとも思ったけれどなんだか気恥ずかしさを感じたのでやめることにした。きっとそのことまで彼にはわかってしまうのだろう。
ああもう。本当にできた彼氏だなあ。遠くで仲間達とボールを蹴り合う青色のエースナンバーを見つめながらそんなことを思ったとある日の私なのでした。




「へえ…豪炎寺のことを追ってきた彼女ってあの子か…」


遠くで私達を見つめる視線があったことにその時の私は気づくことが出来なかった。



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何故口にちゅーじゃなかったのかはもう少しあとでお話します