◎後輩の相談に乗る!



「真央さん、あの…」
「あれ?壁山くんどうしたの?」
「今、大丈夫ッスか?」
「? うんもちろん」


部活が始まる前の時間。今日の集合場所は河川敷だったよななんて思いながら乗降口を出ればそこには壁山くんがいた。なにやら話があるらしい。どうしたんだろう。元気がないところをみると何か相談したいことでもあるのかな?…って言ってもなんとなくならわかるんだけど。
とりあえず人目のつかない場所に移動した私達。もちろん私から口を開くことはない。ここは彼の思いを彼のタイミングで言ってもらい、聞くべきだろう。私は出来るだけ自分の雰囲気を柔らかくしながらじっと彼の言葉を待った。


「……真央、さん…」
「うん」
「あ、あの…オレ…」
「うん」
「……自信が、ないんス」


やっぱりそうか。口には出さなかったけれど、私が思っていたことと壁山くんの悩みはどうやら同じのようだ。
彼のいう悩み。それはイナズマ落としを完成させる自信がないというものだった。そう、壁山くんは極度の高所恐怖症だったのだ(元々の気の小ささも関係しているのかもしれないけれど)。だからと言って今更壁山くんの代わりを考えるという時間もないし、おそらく考えたとしても適任といえる人は彼以外いないだろう。なんとか壁山くんに高さを克服してもらいたいと願っていたんだけど…うーん、恐れていた事態になったなあ。どうしよう。私はぽりぽりと頬を掻いた。


「壁山くんが頑張ってるのは私にもすごく伝わってくるんだよなあ」
「そ、そうッスか…?」
「うん。相当怖い思いをしてるっていうことも、同じくらいにね」
「………」


これは同情なんかじゃない。私がここ数日の壁山くんを見ていて思ったことだ。壁山くんはなんだかんだで努力している。努力しているけれど周りが望むところまでなかなか到達しない。きっとその焦りも心の負担になっているんだろう。
私は言葉を続けた。


「自分の嫌いなことや苦手なこと、困難に立ち向かっていくのってすごく辛いよね」
「ハ、ハイッス……」
「ただひたすら辛いし苦しいし」
「…………」
「もう嫌だ、止めたい、逃げ出したいとどうしても思ってしまう」
「…………」
「……だけどね、」
「……?」


そこで一旦言葉を区切ってから、私はまっすぐ壁山くんを見つめた。


「きっと、それが“成長する”ってことなんだと思うの」
「成長、する…?」
「うん。その仕方も人それぞれだと思うんだけどさ」


例えば特訓。苦しさとひたすら向き合う方法。
例えば方向転換。考え方をちょっとだけ変えてみる方法。
やり方は違うけれど、どちらも己とは向き合わざるを得ない。だから結局自分の中の何かが『成長』してそして最後は自分の力になる。そう語る私を壁山くんはじっと見つめ、ただただその話に耳を澄ましていた。


「…修也はもう次のことを考え始めたよ」
「え…っ」
「必殺技を完成させるための、ね」
「………っ」
「だけど焦っちゃ駄目」
「……!」
「壁山くんには、壁山くんにしか出来ないことがきっとあるよ」


それは一体何なんスか…?
そう訊ねる彼に私は壁山くんにしか出せない答えだよと返す。冷たいと思われるかもしれないし、曖昧な言い方だと感じられるかもしれないけれどこれは事実だ。壁山くんが自分の手で見つけるほかない。


「おーい!なにしてんだ?」
「あ、円堂!」
「そろそろ練習始まるからお前達も早く移動しろよ!」
「りょうかーい」


行こっかと歩みを進めればきっとまだ不安なのだろう、壁山くんは俯いたまま私の後ろをとぼとぼ歩いていた。これからまた彼にとって嫌な練習が始まるんだ。そりゃ憂鬱な気持ちになるよね。…よし。


「壁山塀五郎!」
「っ!?ハ、ハイッス!」
「背筋をピンとのばーす!」
「へ?」
「腕を前に出してー!」
「へ?ハイ」
「手を広げーる!」
「??」
「はい、これ!」


ポトッ。そこあったのは「き、キャラメルの箱…?」「うん、未開封だよ。それ全部あげる」「え!ほんとッスか!?」「難しいこと考えたあとに甘いものは必須でしょー」「うわあ…!ありがとうッス〜!」そう言った壁山くんの顔にはようやく今日初めての笑顔が見えた。よかった。まだ笑える元気はあったみたいだ。
まだ根本的なことは何も解決していないけれど、きっと彼ならやってくれる。今はそう信じていよう。隣でキャラメルを頬張る壁山くんを見ながらそっとそんなことを思った。



数日後、雷門はついにイナズマ落としを完成させ地区大会1回戦突破を決めることになる。壁山くんが見つけた方法、それがまさか上を向いてお腹で修也を支えるだったとはさすがに私も考えつかなかった。やっぱり壁山くんが頑張ったからこそ見つけられた答えだったんだね。お疲れさま、そしておめでとう壁山くん!


「真央さーん!オレ、カップケーキが食べたいッス!」
「はいはい、じゃあ明日作ってくるね」
「やったッスー!」
「…ふふっ」