◎お願い、勘弁してください…!


「いーやーだー!」
「お姉ちゃん!早くしなきゃ試合始まっちゃうでしょ!」
「やだやだこんな格好恥ずかしくて人前に出られない!絶対やだー!」
「もう!みんな同じなんだからいいじゃない!」


小さな子供のように駄々をこねる私を更衣室からずるずると引きずっていく春奈(一体、我が妹にどこまでの力があるのだろうか)。気づけばノリノリな秋と放心状態の夏未の元に合流していた。うん、夏未の気持ちはすごくよくわかるよ…!


「きーのせーんぱい!お姉ちゃん連れてきましたー!」
「わあ、真央ちゃんかわいい!」
「お褒めの言葉をありがとう、だけど私はもうお家に帰りたいよ!」


必死に裾を下に引っ張り泣き笑いでそう叫べば、秋と春奈は依然としてニコニコ楽しそうに笑ったままだった。秋のは天然の笑顔だけど、春奈のはどこか黒い笑顔ですよね。何故そこで達成感を味わっているのかな、あなたのことは姉の私にはよくわかるんだよ…!

いよいよ始まるフットボールフロンティア地区大会準決勝。今回の雷門の対戦相手は地区予選最弱と言われていたあの秋葉名戸中だった。何故勝ち進んでこられたのかはともかく、私にはどうしてもここと雷門が当たってほしくない訳があった。それは準決勝の試合会場が秋葉名戸中グラウンドであることに関係している。ええ、マニアックなチームにはマニアックな特典が付き物ですものね!だけどさ、いくらなんでも。


「マネージャーのメイド服着用とか、絶対要らないルールでしょ!」
「えー、楽しいからいいじゃない!」
「音無さんの言うとおりよ、真央ちゃん。せっかくだし楽しもう!」


きゃっきゃきゃっきゃはしゃいでいる2人を見ているともう心が折れそうになってきた。いや、すでに折れているのかもしれない。そう、この学校で試合をするからには(一部の)マネージャーが犠牲にならなければいけなかったのだ。以前この学校について情報収集をしていた時にこの要らない情報まで掴んでしまった私はなにがなんでもこの学校と当たらないことを祈っていた。それなのに、最弱と言われるチームが見事に勝ち上がってきてくれちゃってさ…!ああ、神様の意地悪…!


「君も雷門のマネージャーなんだな!」


そんな風に嘆いていればふと見覚えのある人が私に近づいてきた。このマニアックな感じ、間違いない。今日の対戦相手、秋葉名戸のゴールキーパー…!


「ちょっと、君!メイド服のこと、ここの選手ならガツンと監督に、」
「写真お願いするんだな!」
「……はい?」


止めるように言ってよ、その台詞は強制的に飲み込むことになった。というか、え、写真?どういうこと?「あ、私達さっき撮ってもらったからお姉ちゃん1人で撮ってもらいなよ!」うん、春奈さんざっくりとした説明ありがとう!私はもう本当に泣きそうです!
いやだと再び駄々をこねてはみるものの、相手もかなりしつこくねだってくる。しまいには「お姉ちゃん、いい思い出作りだと思って!」だなんて、ああもう帰ったら覚えてときなさいよ春奈!


「目線こっちにお願いするんだな!」
「え、や、ちょっ、ほんとにやめて…!」





「こいつ撮るなら俺の許可必須な」


ぎゅっと目を瞑ってフラッシュを浴びる覚悟をしていれば、突然だいすきなバリトンボイスが耳に届いた。恐る恐る目を開けてみればそこにいたのは相手の選手のカメラレンズを片手で遮る修也の姿。


「な、なにするんだな…!」
「真央は俺のだ」


ぎろり、鋭い視線は相手選手だけじゃなく周りにいた人全員を凍らせるには十分だった。そそくさ逃げていく彼の背中を見送り、私は修也の元へと駆け寄る。


「しゅうやありがとう助かったー!」
「はいはい、音無もやり過ぎだ」
「あはは…ごめんなさい」


片腕で私をぎゅっと抱きしめてくれた修也。松葉杖慣れてないのに、ごめんね。俺のだって言ってくれて嬉しかった。助けてくれて本当にありがとう。そんな思いを込めて私もぎゅっと抱きつく。安心する彼の匂いと感覚に自分でも気づかないうちに少しだけ涙が溢れていた。


「おーい真央ー!大丈夫だったかー?」


少しして円堂のそんな声が聞こえたので平気だよー!といつもの調子で返事をしておく。よかった、声も震えてないしもう大丈夫みたい。そっと身体を離して修也にそう伝えるようににこりと微笑む私。そのままゆっくり修也とベンチに向かった。


「真央、これ」
「…っ、…え?」


ばさりという音と共に暗くなる視界。びっくりして頭から被ったものを確認すれば、それは見慣れた青と黄色の雷門ジャージだった。


「着替えるまで羽織ってろ」


ベンチに腰かけたため私より低い位置にある彼の表情を伺うことは難しかったけれど、これほどありがたいことはなかったのでご厚意に甘えることにする。何から何までありがとう、修也。
さて、未だに魂の抜けてる夏未さんを迎えにいくことにしますか!





「豪炎寺も素直じゃないのな」
「…円堂」
「真央のメイド姿、他人に見せたくないなら正直に嫉妬してますって言っちゃえばいいのに」
「……言えるかよ、そんなかっこ悪いこと…」