◎わたしがここに来た理由
※豪炎寺視点



1時間目の授業は偶然にも総合だった。
円堂の提案でこの間転校してきた俺も含めて急遽歓迎会のようなものをやることになったのだが。
「真央」「あ、修也」「ちょっと来い」その前に俺の最大の疑問を片付けないといけないよな。
簡単な準備の段階ですでに盛り上がっているクラスメイトを尻目に俺は真央の手を引いて廊下に出た。


「久しぶり、かな。修也、何も言わないで転校しちゃうんだもん。だから私もおかえししてみた、なんてね。えへへ、びっくりした?」
「びっくりしたも何も、何故だ。何故ここがわかった」
「……妹がね、この学校にいるの。天才ストライカーが帝国との練習試合で奇跡の1点をもぎ取ったっていう話を聞いてピンときて。確かめてみたらやっぱり修也で。…ねえ修也、」


サッカー、またプレーしているの…?
学ランの裾をきゅっと掴みながら消え入りそうな声で真央は言った。不安そうな瞳から俺は目を反らすことができない。

妹の夕香が事故に遭ってからというもの、俺はまるで変わってしまった。
そう、生きているのに死んだも同然だった。
そしてそんな状態でも出来る自分なりに罪を償う方法は夕香が目覚めるその時まで好きなサッカーを封印すること、これしかないと思った。
だから父さんの働く、そして夕香のいるこの稲妻町にやって来た。これ以上カッコ悪いところを見せない為に、真央にも黙って転校を決意して。
だけど昨日、あいつらのサッカーを見て俺の思いは大きく変わった。
“夕香が目覚めるまで勝ち続ける”──。きっと夕香はこの方が喜んでくれるだろう。
だけどこれでは黙って転校した意味がなくなってしまう。そう、これはある意味真央を裏切ったのではないだろうか。
俺は新たに堅く決心したと同時にどこか罪悪感を隠せないでいたのだ。


「……すまない」


この言葉に限る。俺は姿勢を下に落とした。情けないことに彼女の表情を確認することもできない。
「赦せなかったら殴ってもらって構わない」
俺は固く目を瞑り、覚悟を決めた。


「………バーカ」


ふと胸に寄りかかってきた真央。特有の優しい匂いが鼻を掠める。たった数週間しか離れていないのにすごく懐かしい感覚がした。


「私ね、修也が相談もなしに転校しちゃったのは悲しかったけど、サッカーやるのは全然反対じゃないよ」
「え…?」
「むしろ、嬉しい。」


やっぱりサッカーやってる修也は輝いてる。
真央はそう言ってからふふっ、と言葉の通り嬉しそうに笑った。
「裏切られたとか俺が憎いとかそういう気持ちはないのか?」「全然。転校のこと知った時はショックだったしすごく寂しかったけど、今はこうして一緒にいられるんだもん。何より修也の頑張りをまた近くで見られるから私はそれだけで嬉しいよ」
拍子抜けした。本当、こいつはどこまで優しいんだ。だからこそ俺はお前に甘えてしまうんだろ。
そんなことを遠くで思いながら最大級の感謝と謝罪を込めて、力いっぱい抱き締めた。


「うー、しゅうやくるしいよ」
「今はこれでいいんだよ」
「もう。…あのね、」
「ん?」


トン、と真央が肩を押したのと同時に俺は力を緩めて彼女の顔を見つめる。
深紅の瞳はまっすぐ俺をとらえていて彼女の性格そのものを表しているかのようだった。
「私がここにきた本当の理由はね、」


修也を1番近くで支えるため。
辛いことも苦しいことも、これからは一緒に乗り越えていこうね。

頬に赤みがさしたのを隠すかのように今度は真央がぎゅっと俺を抱き締めた。
そんな彼女にどうしようもない愛しさを感じ、俺も負けじと抱き締め返した。
俺達の目に涙が浮かんでいたことにお互い気付いていただろうか。



「しゅうや、やっぱり苦しい」
「うるさい、黙ってろ」
「えー?」


俺達の新たな物語は今ここから始まった。
波乱の学校生活は一体どんな風になっていくのだろうか。



----------
公式無口キャラな修也くんですがこのシリーズではキザなことやベタなことをバンバン言ったりやったりしてもらおうと目論んでます