01. せかいはどうにもうつくしいので

空一面に広がる淡い青が綺麗だと思った。無機質な教室には太陽の光が柔らかく差し込んでいる。時折、窓からさあっと入る風が心地良い。ああ、これは1時間目からおやすみコースかな。でも、次の授業、居眠りしてるとよく当てられるんだよなあ。そんな憂慮をしていれば、ホームルームを知らせるチャイムが鳴った。いつも通り、担任が教室にやってくる。


「今日は転校生を紹介する」


突然のこの一言に、クラス中がざわめいた。この中途半端なタイミングで?男?それとも女?女子ならかわいい子がいいな。あまり騒がしいことが好まれないこの学園で、珍しく各々がひっそりと会話をしていれば、先生は静粛に、と言い放った。しんと張り詰めた空気。呼吸の音すら拾われそうだ。
廊下に向かって、入りなさい、と声が掛けられた。どんな子なんだろうという好奇心が扉一点に集中する。そんな緊張感の中、そっと扉は開かれた。

綺麗な碧色が目に入った。前髪で瞳はまだ見えない。スラックスを履いているということは、男の子なのか。それにしても、綺麗な髪だな。わたしよりも天使の輪っかが輝いている。一体、どんなケアをしているんだろう。それに、男にしては華奢な身体だなと思った。しなやかな肉付きに、思わず嫉妬のような気持ちを抱く。手足も長く、顔もきゅっと小さい。一体、何頭身なのだろう。ばかばかしいことをぼんやりと思っていれば、チョークの音がカツカツと響いた。担任が一画一画、丁寧に彼の名前を書いている。
カツンとチョークを置く音と、彼が正面を向くタイミングが合った。色素の薄い瞳が少しだけ緊張で強張っているのをわたしは見逃さなかった。


「…風丸一郎太です。よろしくお願いします」


さらり。軽い会釈とともにひと束のターコイズが流れ落ちた。光に当たってきらきらと淡く輝いている。透明度の高い海に太陽光が差し込むのを思い出した。制服の夜の森のように深いグリーン色とのバランスがどこか不釣り合いで美しい。加えて、中性的な顔と声。遠目からでもわかる。彼は間違いなく、美形だ。
どこかアンバランス。だけど麗しい。独特な彼の雰囲気に誰もが息を飲めば、隣の席の佐久間が驚いたように彼の名を呼んだ。その声は彼の耳にも届いたのだろう。キリッとした目が安心したように柔らかくなる。


「よかった、佐久間がいたか…」


整った顔で、小さくはにかんだ。
ついに、周りの女の子たちが色めき立つのがわかった。


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