お似合いだったのになぁ、とその大きな背中を見ながらぼんやりと思う。
おしどり夫婦みたいなカップルだった。
2人が付き合い出したのは記憶が正しければ3年前。まだ私達が中学2年生の時だった。
2年生にしながらテニス部のレギュラー。しかもかっこ良い。王子様みたいな容姿。跡部先輩達ほどまでとは言わなくとも、同学年の中では日吉と並んで圧倒的な人気を誇っていた。
そんな鳳は、ある日あの子と付き合い始めた。
美少女とまではいかないが、笑顔が愛くるしくて、庇護欲が掻き立てられる。背も平均よりちっちゃくて、鳳と並ぶと余計小動物みたいだった。
家庭科部に所属している為か、近づけば仄かに香るお菓子みたいな甘い匂い。大人しめな性格で、男子達の中でも密かに人気があった。
あの子を一目見た瞬間、わかった。あの子には、敵わない。
鳳の部活がない日は登下校は一緒だし、部活があってもあの子がテニス部が終わるのを待っていることもあった。
お昼はいつも2人で食べていて、楽しそうに笑っていて、幸せそうだった。2人が喧嘩している姿なんて、見たことがなかった。
あまりイチャイチャしている姿は見たことはなかったけど、その仲睦まじさに多分、2人はこのまま結婚するんじゃないかなぁ、なんて思っていたのは私だけではないはず。
3年。長いようで、短い。でも、中学と高校とで費やしたその時間は間違いなく、貴重なものだった。
何故、2人は別れたのだろう。
「どうしたの、浜浦。浮かない顔してるけど」
突然、前の席に座っていたはずの鳳が振り返る。
彼女と別れてまだ一週間も経ってないはずなのに、悲しさとかそんな様子は微塵も見られず、いつも通りの鳳にしか見えない。なんだかそのことが、無性に苛立った。
「なんで、別れたの」
「え?」
非難めいた口調で、思わず口に出た。鳳は、眉を潜めた。
「彼女と、なんで別れたの」
あんなにお似合いだったのに。あんなに仲が良かったのに。
「それ、浜浦に関係ある?」
いつもの穏やかな声じゃなく、これ以上踏み込むことを拒絶するような、冷たい声。心臓が嫌な音をたてた。
鳳にとって、多分、これは触れて欲しくなかったことだったのだ。
でも。それでも。
私は鳳に、彼女と別れないでいて欲しかった。
二人が幸せそうでいるから、私は長年抱えてきたこのどうしようもない気持ちから目を背けて、蓋をしてきたというのに。鳳がどんなに女の子と仲良くしていようと、鳳には彼女がいるからと思っていたのに。
見ているだけで幸せだった筈だった。
これから鳳は、以前に増して女の子達に言い寄られるだろう。告白も、沢山される。もう、彼女がいるから、なんて言えない。そのうち、他の子と付き合い始めるかもしれない。
鳳が、あの子ではない、そして勿論、私でもない)誰か他の女の子と手を繋いで、デートをして、キスをして、抱き合って、そんなことをするのかもしれない、そんなことを思うだけで泣きたくなった。
あの子がいるから、他の誰でもない、あの子だっただからこそ。
「ごめん」
私には素直に謝ることしかできない。鳳には彼女がいるからと蓋をしてきたこの想いを告げることもできない。意気地なし。臆病者。
だって、居心地の良いこの関係を壊したくない。
「恋、って何だろうね」
唐突に鳳はそんなことを口にする。鳳からそんな言葉が出るだなんて、驚いた。
何言ってんの、と私は笑い飛ばす。
「多分、もう、友達だったんだよ」
鳳は言う。
恋人ではなく、友達という関係。何時の間にか、そうなっていた。その境目は、どこだったのだろう。
私にだって、わからない。私も、何時から鳳にこんな想いを抱くようになったのか、わからない。
鳳が、彼女と別れたばかりだと言うのに、ちっとも悲しそうではなく、むしろスッキリとした表情であることに気がついた。
「浜浦、今度映画見に行こうよ。この前出た新作のやつ」
鳳は平然と私を誘う。見たかったのだけれども、彼女とは別れたから、一緒には行き辛いのだと。
私の気持ちなど、少しも気づいている様子はない。
これからのことを思うと、胸が張り裂けそうな気持ちすらする。でもきっと、私はどうしようもなく鳳が好きなのだ。
2016/03/22
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