いつかこんな日が来るかもしれないと思っていた。そう分かっていても、いざ来るとやっぱり心は悲しんだ。学生時代から付き合っていた彼とついに終わってしまったのは昨日の22時。私の元に届いたメールの文章は別れと謝罪の言葉が淡々と並んでいた。
ここ何年かで彼と私の関係は確実に変わっていた。私が会社でチーフに選ばれたことで仕事量も内容も前より大きくなっていて、元々この仕事が好きだった私はそれはもう馬車馬のように働いていた。そうすると当然彼と会える時間も減っていた。そんな私に自分も仕事頑張るから気にするなと言った彼は何処に行ってしまったのか。
いつだったか忘れてしまったがおそらく1年とちょっと前だったと思う。久しぶりに彼の家に泊まりに行った日。彼がお風呂に入っている間にいつものようにテレビを見ていると目の前のローテーブルに置いてあった彼のスマホがメールの受け取りをお知らせした。そこには初めて2人で年越しをした時に彼が撮っていた朝日の写真の上に ありさ という人から昨日は楽しかったです。ごちそうさまでした。また行きたいですという旨のメッセージが表示されていた。
これはまさか世の中で言う浮気なのか。自分が当事者になるなんて俄に信じられなかった。だって、大学の頃からずっと一緒で気づけばもう去年で30代の仲間入りをしてしまっていたのだ。職場の人にそろそろじゃないかと言われた時にいやいやと濁していたが内心そろそろだろうと思っていた。なのにまさかの展開。でもまあ普通に職場の人と食事することもあるだろうし決めつけるのは早いと思った。その夜はまあそういうこともしたし、やっぱり彼がそんなことをする訳が無いという結論に落ち着いた。
しかしやはりあのメールはそういうことだったらしい。昨日彼から届いたメールには同じ会社に好きな人ができたと書かれていた。
浮気をしている可能性が100%ないと思っていた訳では無かったが(実はメール以外にもあれ?と思うことが何回かあった)いざ、別れましょうとなると10年以上共に過ごした時間の長さと思い出とが胸を締め付けた。
そんなこんなで何とか今日の仕事を乗り切り
1人で悲しく宅飲みをしてプレミアムフライデーを過ごしていたところにメールが届いた。今日飲みに行かん?と。残念ながらもう家で飲んでいるから行けないと伝えると、それなら家に行く、欲しいものはないかと彼らしい返事にいつもは買わない少しリッチなアイスをお願いした。
こんばんはぁ〜
と気の抜けた声が部屋に広がったのはそれから1時間も経たないぐらい。
「章ちゃんと会うの久しぶりだね」
「そう〜?」
「だって前会った時は黒髪だったもん」
「あ〜舞台があるから染めてたんよ」
そっか〜そんなに会ってなかったか〜と言いながら買ってきたお酒とリクエストしたアイスを冷蔵庫に収めていく章ちゃんとは大学の同級生で今でもたまに一緒に飲む仲だ。演劇が趣味な彼は界隈ではまあまあ有名なアマチュア劇団に所属する俳優で、普段は洋服屋で働きながら年に1、2回ほどステージに立っていると昔言っていた。
久しぶりの章ちゃんとの飲みに話題は尽きなかったがある程度テーブルの上が散らかってきた頃、
「な〜#名前#、なんかあったん?」
やはり付き合いの長い章ちゃんにはすぐバレちゃうかと思いながら彼の観察眼の鋭さに学生時代も隠し事が出来なかったなと思い出した。
「うん…彼と別れちゃったんだよね」
「え、ほんまに…?」
学生時代から付き合っているのを知ってるし相談から惚気まで色々聞いてもらっていた章ちゃんだから驚くのも必要ない。
何があったのかと聞く章ちゃんに一連の流れを説明すると何故か章ちゃんまで苦しそうな難しい顔をしていた。そして私の隣まで移動してくると私の頭に彼の小さくて暖かな手
「泣いてもええんやで、辛かったなぁ」
その一言に今まで知らない内に我慢していた涙が溢れて止まらなかった。結婚するならこの人だろうとずっと思い続けて、いろんな初めてを一緒に経験してきた人との別れは悲しかった。あったかくて優しい手に頭を撫でられリビングでわんわん泣く私は気づいたら章ちゃんの胸の中で抱きしめられているんだと気付いた。
「#名前"?ちょっと上向いて?」
上を向くと唇に柔らかな感触
「しょ、うちゃん?」
「ごめん、我慢できへんかった。でも俺…こんな時に言うべきちゃうって分かってるけど、ずっと……ずっと大学の時からあいつなんかより#名前#のことが…」
俺なら#名前#を泣かせへん。やからゆっくりでええから今度は俺を選んで……お願い
そう言い章ちゃんはゆっくりもう1度私にキスをした。
(あたたかなきずぐち にキス
それは"本当はあなたのことを好きなんです"という言葉の代わり)