りっくおあとりーと?



「…なんだテメェその恰好は」


目と目が合った瞬間、至極呆れたような声色とため息とともに言葉が紡がれた。眉間に寄せられたしわを押さえるように指で触れる。なまえの口からは、言い訳や定例句はとっさに出て来ずに、ハハ、と乾いた笑いだけが漏れた。予想していた反応ではある。俗世の行事ごとになぞ興味のな無さそうな目の前の美丈夫を、なまえは気まずそうに視線だけ動かして見上げるのであった。


「…友だちに、無理やり着せられたんだもん…」


今脱ごうと思ってたの、と言い訳がましくそう告げた。扉に寄りかかったまま腕を組み、三蔵はそんななまえの様子をじろじろと上から下まで吟味するように見つめている。あんまり見ないでよ、と唇を尖らせてそう言うと、ハ、と鼻で笑う声が聞こえた。


「…菓子をやらないと悪戯されるんだったか?」
「…そうだよ、ハロウィンだから」


体を起こした三蔵が、歩みを進めて近づいてきたかと思うと、ずいと何かを握っている手を目の前に差し出された。反射的にさっ両手を差し出すと、バラバラと手の中に落とされたのは──小さな金平糖。


「わ、…きれい」
「…さっき猿に押し付けられた。食っとけ」
「…ありがと」


まさか三蔵の手から甘い菓子がもらえるなどと思ってもみなかったなまえであるが、くれるというのであれば貰っておこうと、もう一度手の中に落とされたそれを覗き込んだ。ピンク・白・黄色・緑…と色さまざまに手の中で転がる金平糖を見て、きれい、となまえは微笑んだ。


「……で?」


気の緩んだ一瞬を見計らって、ドン、と背面にあった壁に三蔵の腕が音を立てて触れた。しまった、と思ったがもう遅い。色とりどりの金平糖に見とれている間にいつの間にか壁へと追いやられていた。びくりと肩を震わせて、恐る恐る視線を持ち上げると、紫煙の瞳が怯えるなまえの姿を威圧的に、だがどこか楽しそうに見下ろしている。


「…トリックオアトリート、だったか?」
「どうして、知ってるの!」
「…他国の祭りに興味はないが、この決まりごとは面白いな」
「ひゃ!」


服の裾から腹を擽るように上ってきた指先に、なまえはびくりと身体を震わせる。胸の形をなぞるように指をついと動かしながら、なまえの耳たぶに三蔵の歯が立てられた。ぞわぞわと粟立っていく肌。手に握られていた金平糖が、パラパラと音を立てて床にこぼれていった。


「…生憎、菓子は持ち合わせてないようだな?」
「っ…ずるい!」
「言ってろ」


悔しそうに睨みあげるなまえの表情を見て、三蔵──いや、目の前の悪魔は唇の端を歪めて嗤う。こんなはずじゃなかったのに、と一抹の悔しさを覗かせながら、なまえは三蔵から与えられる菓子よりも甘美な感覚に溺れていくのだった。