あわせ



 事後特有の気だるげな空気が部屋を満たす。しかしそれは決して居心地の悪いものではなく、むしろ心地の良いものであった。
 決して広いとは言えないベッドに2人で横たわり、他愛もない会話を交わし合う。時折かすめるようにお互いの唇を触れ合わせた。ふ、と悟浄の紅い瞳と目が合い、なまえはクスクスと笑みをこぼす。


「なァに笑ってるんだよ」


 おりゃ、と悟浄はなまえの頬を摘まむ。その感触がくすぐったいのか、なまえはさらにクスクスと笑い続けた。その笑いを遮るかのように、半月を描くなまえの唇に、自分の唇をぐっと押し付ける。ん、とくぐもった声が聞こえ、笑い声はぴたとおさまった。

 ふと漏れる呼吸と共に唇が離れると、ゆっくりと瞼を持ち上げたなまえが、くすりと笑みをこぼして悟浄の瞳を見つめる。


「…どしたのよ、急に楽しそうに」
「ん?……幸せだなあと思って」


 ちゅ、となまえから口づけをひとつ。
 呆気にとられたように目を見開いている悟浄の頬に、人差し指でついと触れる。触れた頬には長く伸びる傷跡が二本。愛おしそうにその傷をなぞり、小さなため息をつくようにもう一度笑ったなまえは、動きを止めている悟浄の体に寄り添った。


「…あんまり可愛いこと言ってると、おにーサン、もう一回襲っちゃいそうなんですけど?」


 茶化すようにつむじにキスを落とし、腕におさまるその身体を力強く抱きしめた。

 …何故か、その真紅の瞳から涙がこぼれてきそうだったことは、自分の心だけの秘密に隠して。