の波に溺れる



 揺れるカーテンの隙間から小さく光が漏れている。
 朝陽にかすかに撫でられて、なまえは気だるげにその瞼を手の甲でこすった。瞼がなかなか持ち上がらない。体は気だるく、腰が鈍い痛みを伴っている。

 ──今、時計は一体何時を示しているんだろう。そして、私はいつからココにいるんだろうか。

 そんなことをぼんやりと考えながら、うっすらと瞼を持ち上げると、視界に広がったのは真紅色。ぼんやりとする頭を少しずつ稼働させながら、視線を少し上に持ち上げると、異様に整った顔立ちの男が瞼を閉じ、心地よさそうに寝息を立てている。その腕はなまえの頭の下へ枕にするように、そしてもう片方は腰を抱くように回されていた。

 ──珍しく、三蔵が八戒と悟空を連れ、少し離れた街へ三仏神からの依頼を受けて出かけて行った。1週間ほど留守にしますから、悟浄をよろしくお願いしますね、と言付かったはいいものの。

 悟浄の家を訪ねてみると、待ってましたと言わんばかりにベッドに引きずり込まれ、その身体を余すところなく可愛がられ。疲れて眠り、起きればまた身体を重ねたり、悟浄が身体に触れる感覚で目覚めたり──と、なかなかに不健康極まりない生活を2人で繰り返しているのであった。

 ──これでは3人に顔向けができない。そろそろこの腕とベッドから抜け出して人間らしい生活を送らなくては。

 そう、意を決したなまえは、目の前に眠る美丈夫を起こさないようにと、ゆっくりゆっくりその腕から抜け出そうとした。が、しかし。


「…どォこに行くのよ」
「あ、やっ」


あと少しでベッドから抜けられる、と言ったところで、あえなくそれは力強い腕に阻止される結果となった。ガブリ、と音が聞こえそうなほどの勢いでなまえの首筋にかぶりつかれて。噛みあとをべロリと舌先でなぞられれば、この数日悟浄に抱きつぶされ、敏感になった身体がぶるっと戦慄いた。


「ん、やぁ…悟浄っ」
「んー?」
「あ、ちょっと、待ってぇ…っ」


 身もだえ困った声色で制止するなまえとは裏腹に、背後の男は至極楽しそうであった。ちゅ、ちゅ、とワザと音をたてるように首筋に口づけを落としながら、くつくつと笑い続けている。


「ん、…っもう悟浄!」
「おっと」


 ふり絞れる限りの力を使って、なまえは未だ悪戯に自分の肌に口づけを落とし続ける男を振り返る。男は、驚いたような声を上げながらも、相変わらずその口元は弧を描くようにゆがめられていた。


「もう、皆が出かけてから、ずーっとここにいるんだから…そろそろ、」
「…だからナニよ。なまえちゃんは、俺とこうしてるのがイヤだっての?」
「そ、うじゃ、ない…けど…」
「じゃあいんじゃね?」
「…だって。でも、八戒に──ン、」


 悟浄の言葉に反論しようとしたなまえから、他の男の名前が聞こえてきたことを合図に、悟浄はその小さな唇を自分の唇であ覆うようにふさいだ。くぐもった声を上げるなまえの体を自分の下に組み敷き、手のひらを押さえつける。ぬる、と舌先をなまえの口内へと滑り込ませ、逃げるように引っ込んでいた舌先へ絡めてやると、その声は次第と甘いものへと変わっていった。


「ンっ…ふ」
「…俺とベッドに2人きりでいるってのに、他の男の名前呼ぶなんて、なまえちゃんたらいけない子だねェ」
「や…ごじょ…」
「…オシオキ、な」


 やだ、おかしくなっちゃう、
 体をなぞる指先と唇に翻弄されながら、甘い声の隙間に絞るようにつぶやかれた言葉に、お前と一緒に堕ちるなら悪くないかもな、なんて、冗談めかして耳元で囁き返しながら。