Good morning,my honey!




小鳥が柔らかに歌を奏でる音で目が覚めた。


素肌に触れるシーツの、やわらかな感触が気持ちよく、なまえはもぞもぞとその白へと顔をうずめる。ふと、隣にいるはずの存在を思い出し、シーツの波の間を沿うように指先を伸ばす。しかし、触れるはずのぬくもりはそこにはなく、なまえは訝しげに眉根を寄せ、そっと瞼を持ち上げた。


そこには、昨夜熱を分け合っていたはずの男の姿はなく。ベッドを抜け出して、しばらく時間が経っているのだろうか、触れた先はなまえの指先へ、ジンと冷たい感触を残すばかりであった。


「──三蔵?」
「…なんだ」


そのシーツの冷たさに寂しさを覚え、隣にいるはずであった男の名を、呟くように読んだ。すると、少し間を開け、不機嫌そうな声色で短い返事が返ってきて、次いでガサリと紙が擦れる音。明るんだ室内に目を瞬かせたなまえが、少しだけ上半身を持ち上げて周囲を見回すと、ソファに傲然たる態度で腰かけ、煙草をふかしながら新聞へと目を通す三蔵の姿があった。


「…いたの」
「いたら悪いのか」
「ううん、…いなくなったかと思ったから」


ちょっと寂しくなったの、と呟き、なまえは再び枕へと顔をうずめた。
うつぶせに枕に顔をうずめたために、三蔵の表情はもう見えないが、じっとこちらの様子をうかがっている視線を感じる。次いで、鼻で笑う声がかすかに耳に届く。ギッ、とソファがきしむ音がして、カチャリとテーブルに何かを置く音。これは多分、新聞を読んでいた三蔵がかけていた眼鏡だろう。そして、足音。ギシ、とベッドがきしむ音がして、なまえの隣が沈んだ。


──さらり、と髪に指先が触れる感触がして、なまえは誘われるように枕から視線を持ち上げた。見上げた先に、三蔵の紫暗の瞳が間近に見えて。反射的にぎゅっと目をつむると、形の良い唇がなまえの唇に軽く触れた。


「──構ってやりてェのはやまやまなんだがな」
「…」
「朝課の時間だ」


ともすれば布団の中へと姿をくらましてしまいそうななまえの瞳を、三蔵が覗き込む。


「──せいぜいイイ子で待ってろ、なまえ」


ぐしゃぐしゃ、とかき回すように頭をなでていった大きな手のひら。文句の一つでも言ってやろうと身体を持ち上げると、唇の端を持ち上げニヤリと笑い、伏し目がちになまえの姿を一瞥してドアの向こうへと消えていく三蔵の姿が。


ああ、私はあの人に一生叶う日なんてこないんだろうな──と。
なまえは悔しいような、でも嬉しいような気持ちに、自然と緩んでくる口元を隠すかのように枕に顔をうずめ、もう一度眠ろうかとそっと瞼を閉じた。


その瞼の裏には──キラキラと太陽のように輝く、金色の髪色を持つ愛しい者の姿を思い浮かべながら。