Good morning,my cutie!




「──なまえ…、なまえ、起きてください」


やわらかく優しい声色と、ゆっくりと自分の肩を揺さぶられる感覚に、なまえは閉じていた目をうっすらと開いた。すぐに目に飛び込んできたのは、じっと自分を見下ろす綺麗な深緑色の瞳。


ぱちり、瞼を持ち上げたなまえの瞳と視線が絡まり、目の前の男──八戒は柔和に微笑んだ。その、優しいまなざしと笑みに、引き込まれるように両腕を伸ばし八戒の首へとゆるやかに巻き付ける。すると、それが当たり前であるかのように、八戒もまたなまえの背へと腕を絡めて抱き留めた。


「おはようございます、なまえ」
「…ぉ、はょ」
「おや」


起きがけだからだろうか、朝の挨拶を返そうとしたところで、なまえは声がひどくかすれていることに気が付いた。けふ、とそのまま一度咳き込むと、抱き留めていた腕を緩めて八戒がなまえの顔を覗き込む。


「声が掠れていますね」
「ん」
「ちょっと待っていてください」


昨日張り切りすぎちゃいましたかね──、わざとらしく、いたずらっぽく耳元で囁いていった八戒の言葉。その言葉に抗議しようと、ぺち、と一回戯れるように、ベッドを降りて離れていくその背を叩いてやると、いたた、なんて大していたくもないくせに笑うその表情は柔らかくて。
ふにゃりと、とろけそうになる表情を抑えながら、部屋に備え付けてある冷蔵庫から何かを取り出す八戒の姿を飽きることなく目線で追い続けた。


「──はい、お待たせしました」


ぎし、と再び八戒がベッドに腰掛ける振動。どうしたのだろう?と首をかしいでいると八戒は、あーん、と口を開き、指先でトントンと自分の唇を指示した。そのジェスチャーにつられるようになまえが唇を小さく開く。すると、ぐっとペットボトルを煽るように飲んだ八戒の唇が、なまえのそれと重なった。


「ン、」


八戒の口内から冷たい水がなまえの口内へと移されていく。なまえは、八戒から分け与えられる水を溢さないように、溢さないようにとゆっくり慎重にのどを嚥下させていった。


「ぅ…ン、ふは」
「はい、上手にできましたね」


全て水を飲み終え、唇を離すと、苦しそうに深呼吸をしたなまえ。その頭を、まるで幼子をあやすかのようにポンポンと撫でていく八戒の手の平。甘んじてそれを受け止めながらも、なまえはなにか物足りなさを感じていた。


──冷たい水を分け与えてもらったはずなのに、心はじくじくと熱くうずいて。


その本能に従うように、誘われるように、なまえはもう一度八戒の首へと自分の腕を絡め、その顔を引き寄せた。


「わ、っと…、…なまえ?」
「…はっかい、」


もっとちょうだい、とその耳元に囁くように言葉を落としてやる。──仕方ないなぁ、と困ったように笑い、そして──再び水を含み近づいてくる八戒の唇を、なまえはその口元に確信犯のような微笑みを浮かべて、そっと受け止めた。