偶然、だった。
とっさに引き返した足はどんどん速度を上げていて、本来行く予定だった図書館からは遠ざかって行く。
頭の中はぐちゃぐちゃで、そのまま談話室なんか帰れるはずもなく、たまたま目についた空き教室のに入り、そのまま扉に背を向けたままズルズルとしゃがみこんだ。
埃っぽく薄暗い教室は今の自分にはお似合いかもしれない。熱くなっていく目を信じたくなくて、膝に顔を埋めた。
…知ってたんだ。彼女が出来た事ぐらい。
「大好きよ、ジョージ」
人通りが少ない廊下の端でたまたま見つけてしまった噂の彼女。
綺麗なブロンドの髪。綺麗な蒼い目。スラリと伸びる長い脚。彼に向ける花も綻ぶような笑顔。
全部全部、自分には無いモノで。思わず固まってしまったから、長い腕が伸びた相手の事を考える余裕なんてなかった。
「ああ、勿論。僕もだよ。」
とっさに背けたけど、彼の声は耳に届いてしまって。
ねえ、一体どんな顔をしてたの?
考えたくないのに、脳内では見えなかった筈の彼の表情が補われていく。
いつからだっただろう。彼ら双子の違いを見つけられるようになったのは。
バカみたいな実験台として遊ばれて、半べそをかいている私にいつも目じりが下がった笑顔で最初に頭を撫ででくれるのはいつも彼の方だった。
兄弟といるときは私の事をモルモットと呼ぶのに、二人っきりのときは「ナマエ」なんて呼んできて。
…気がつけば、いつも目で追っていた。
「………っ…」
きっと、彼女の腕も目じりが下がったあの笑顔で受け入れたんだろうな。
羨ましい、悔しい、悲しい、いろいろな感情がぐちゃぐちゃに混ざって気持ち悪い。
…ねぇ、もしかしたら、
もっと素直になっていれば。
自分の気持ちを疑わなければ、私でも。
そんなありえもしない妄想まで浮かんできて、とっさにローブを握りしめた。
「……っ、…ばっかみたい……」
滲みが広がるスカートに顔を埋めて、嗚咽をかみ殺す。
こんなときまで、素直に泣けない私が彼の一番になれる筈ないのに。
大好きよ、なんて。もう彼には伝える事が出来ない一言を嗚咽に混ぜて。
(自分の気持ちを認めたときと
失恋は同時でした)