記憶の中で泣いている子がいた。どうしたの、と近づくと、お父さんがひどいんだ、お兄ちゃんお姉ちゃんたちと遊ばせてくれない、いつも痛いことばかりするんだ。うずくまって泣いている子。髪の色が特徴的で、多分一度見たら忘れられない。

 その時後ろから、轟々と炎が沸き起こった。その子はそれを見つめて、やだ、もうやだ、やめてよお父さんと言った。炎の中心には、大人の男性が立っている。

 その子はそれでもなお、泣いてうずくまったまま。わたしはその子に近づいて、声をかける。

「あのね。わたしが消してあげるよ」

 えいっ、と払うように手を振る。炎は一気に暴風にあたったかのように消えて行き、男性はスーッと徐々に消えていく。呆然とその様子を見ていた男の子は私の方を向いて、嬉しそうに笑うのだった。

「ありがとう、もう大丈夫だよ」

「うん。だからもう泣かないで。そうだ、何かやりたいこととかない? 空飛びたいとか!」

「うーん…この前空飛んだからなあ」

「じゃあ泳ごう!」

 わたしはそう言って、今度はえいっと指パッチンしてみた。音は鳴らなかったけど、雰囲気は大事だと思った。そうしたあと、晴天に海が広がり、わたしと男の子は泳ぎやすい水着になっていた。ぱぁあと明るくなるその子をみて、わたしは男の子の手を掴み海へと誘った。水をかけあったり、泳いだり、砂浜でお城を作ったりした。その子はそういった経験がないからか、どうしていいかわからないというから、わたしが率先して教えながら遊んだ。

 遊んでいるうち、男の子の動きが止まって、どんどん瞼が落ちてきている。わたしはもうそんな時間なんだ、と言い、その子の正面へと立つ。

「たのしかった、またね、名前ちゃん」

「焦凍くん、また遊ぼうね。夢の中で」

 そう言って今度は自分自身の手と手を合わせ、視界はブラックアウトする。

 いつかみた夢の話。