名字とは期末試験の2日前まで一緒に勉強した。大体3日間くらいだ。名字が苦手な英語を主に教えていた気がする。名字との会話は心地よかった。学校の話ばかりだが、名字の好物の話だったり、苦手なものだったり、帰り道に聞くことができた。
 連絡先を交換はしたけど、そっちに関してはあまり使っていない。俺が図書室に向かう時に少しやりとりをするくらいだった。ただ、期末試験の日のSHR前に、名字から頑張ろうね、というメッセージとともに、ウサギが力拳をしているスタンプが来た時は、可愛いなと思った。

 試験が終わってからは、あまり名字と会えていない。緑谷達から林間学校の誘いはあったが、休日は見舞いに行くからと断った。
 見舞いに行く前、林間学校の支度のために衣類を詰めていたところ、タオルも持っていかないとと思い、姉さんに声をかけ適当に何枚か受け取る。

「林間学校かあ〜。楽しそう。焦凍も楽しみでしょ」

「別に…。ヒーロー科は想像してるような林間学校じゃねえと思うけど…」

「なんか懐かしいなあ。同年代の子とお泊まりとかいいよね」

「俺は初めてだからよくわかんねえ」

「昔はよく名前ちゃんも泊まりにきてたし懐かしいなって思っちゃうな」

「名前ちゃん?」

 聞き慣れない名前に一度思考が向く。懐かししむように頷いていた姉さんは、ハッとしたような顔をして、なんでもないと言った。そこまで言われたら気になるわけで、俺の記憶の中では誰かが泊まりに来ていたことなんてない。姉さんに、誰だそれ、と聞くが、なんでもないと手を振られて部屋を出て行ってしまった。

 もやもやとしたまま、見舞いに行く為に病院へと向かう。お母さんは最近、俺が話すと笑ってくれることもあって、よかったと思った。アイツのことは何も言わないが、俺の学校生活をよく聞きたがる。
 今日も期末試験のことを話していたとき、ふと名字のことが頭をよぎり、友達と勉強したと言った。お母さんはそのことについても静かに話を聞いてくれていた。

「名字ってやつなんだけど、普通科で。初めて会った気がしないから、変な気分になるんだ」

「そう…以前会ったことある子なの?」

「わからない。名字は教えてくれない。何か知ってるようだけど、言いたくないって言われたから聞いていない」

「無理に聞いても困っちゃうかもしれないもんね。焦凍はお友達がたくさんできているのね」

「うん…そう、だと嬉しい。…そういえば、さっき家出る時に姉さんが変なこと言っていた。昔名前ちゃんって子が泊まりに来てたって…」

「名前ちゃん…。懐かしいわね。もう何年も経つわ」

「お母さんは知ってるのか?」

「知ってる。けど、あなたが忘れているってことは私が話すべきことではないと思うわ」

 忘れている? 俺は会ったことある奴なのだろうか。はっきりとした答えは言わないお母さんに、無理に聞くことはいけないと思い何も聞かなかったが、そのせいか少し沈黙が続いた。林間学校の準備もある為、そろそろ帰ろうとしたときにお母さんが声をかけてきて引きとめる。

「名前ちゃんはね…個性が少し特殊で、その影響であなたは何も覚えていないと思うの。でも、あなたと同じ歳で近所に住んでいたわ。事情があって引っ越してしまったの。あなたとはとても仲が良かった。何かのきっかけで、思い出すといいなって思うわ」

 お母さんからの言葉に、どう返していいかはわからなかったけど、俺もそう思うとだけ言って、病院を後にした。