朝起きて、ぼんやりとした頭のままで夢のことを思い出す。ちゃんと名前のことを覚えていることができた。昔一緒に遊んだ記憶もそのままだった。忘れていたはずなのに、当たり前のことのように覚えていることが不思議で堪らない。それでも、名前と会えなかった期間のことや、自分が忘れていた間のことを考えると、少しだけ心が空っぽだったんじゃないかというような気分になった。

 今日から寮生活が始まる。荷物は既にハイツアライアンスに届けていた。寮に入る前、相澤先生から色々あったが、ひとまずは自分の部屋の作業入る。和室じゃないことに違和感を感じながらも作業をし、アルバムを見ていたとき、お母さんの写真の他にも名前と撮った写真があったことに気づく。アルバムなんてあまり見る機会もないし、見るのも辛くて見ていなかったが、名前と昔遊んでいたことを思い返して少し頬が緩む。

 お母さんの写真を一枚取り出し、ベランダに出た際、突風に乗って飛んでいってしまい、探しに行くのに発目とリカバリーガールに会ってからはなんだかんだ騒動があったけど、リカバリーガールから粗大ごみ置き場に置かれたまだ使えそうな障子戸や畳をいただくことにした。往復している際に、見覚えのある後ろ姿を見かけた。それはこの前も見たし、昔も見た、名前の姿。

「名前!」

「わっ! …と、どろきくんかあ、びっくりした」

「名前」

「え、あ、はい。名前です」

「名前…」

 やっぱりちゃんと覚えている。あれは俺の幻想だったんじゃないかって少し不安になっていたけど、ちゃんと覚えてる。名前は困ったように笑いながら、夢ぶりだね、と言う。

「轟くんは寮の中もう片付いた?」

「いや…今畳を移動させてるところだ」

「た、畳?」

「あぁ。和室の方が落ち着くし、まだ使えそうなのあった。使っていいって聞いたから、移動させてる」

「なんかすごそう…」

「名前は? 終わったのか」

「私はもう終わってる。ゴミをこれから捨てに行くところだよ」

 名前の手元には大きなビニール袋が両手にぶら下がっている。方向は同じだからと言って、一つ名前の手から取った。慌てた様子で自分で持つという名前に、一緒に行きたいって言えば、また困ったように笑う。可愛いなと思った。

「ちゃんと、覚えてる」

「うん…。後悔してない?」

「するわけないだろ。…名前、もう呼んでくれないのか。俺は呼んでるのに」

「えっ?! い、いやあなんか恥ずかしい、じゃん…今まで私は記憶あったし…」

「消したのお前だろ」

「おっしゃる通り…」

「じゃあ、呼んでほしい」

「うう…うん…しょ、焦凍くん。焦凍くん。よし、大丈夫」

 名前が俺の名前を呼ぶ度、また懐かしさだったり、言いようのない気持ちが胸に詰まる。隣に歩く名前の顔を見て込み上げる感情。きっとこの感情は

「空いてしまった時間がすげえもったいない気がする。だから、その分お前ともっと話したいし、一緒に勉強もしたいし、飯も食いてえって思う。寮生活が始まったんなら時間見つけて会えたらいいなって思う」

「…あ、え、お、おおう……うん…」

「それに」

 また、夢の中でも会いてえ。

 名前は驚いたようにしている。それでも、最後に俺がそう言って、歩みを止めた。振り向くと少し泣きそうな、でも嬉しそうな、心なしか顔が赤いような。そんな表情をしていた。

「ほんと、私が気にしてたのがばからしくなってくるくらい、どストレートに言ってくるよね」

「悪りぃ」

「でも…ありがとう。そう言われると、すごい救われる気持ちになる。ずっと、私は自分の個性を好きになれなかったから。隠していたつもりだったし、役になんて絶対ならないって思ってた。全然好きじゃなかった。だから…ありがとう、焦凍くん」

 名前はそう言って笑い、また夢で会おうねと言った。