どうして女には月のものなんてのがあるんだろう。

大人になるが故の、必要な体の現象なのだとしてもなかなかしんどいものだ。初めてのそれを迎えてから早数年。毎月のこととはいえ、私は今死にかけている。
いつもはこれほどひどくないのに、なんだか今回はいろいろな症状が重なっていた。お腹が痛い。腰も痛い。体がだるい。気分も落ち込む。眠たい。
厨で何か温かい飲み物でも飲もうと思ったのだが、厨までが遠い。動きたくない。ゆっくり廊下を進みつつも、腹部に走る重い痛みがそれを阻む。

厨まで行くことを諦め、通りがかった広間へと入った。遠征に行っている者が多いこともあって、広間には誰もいない。隅にあった座布団を丸めて枕の代わりにし、そのまま横になる。



「うぅ〜…っ」



思わず呻いた。痛い。だるい。無理だ、死ぬかもしれない。死なないけど。気分的な意味で死にそうだ。

そのままうずくまっていた。






「…じ、…主、」
「…はせべ…?」



優しく体を揺すられて重い瞼を上げると、長谷部がいた。いつのまにか眠りに落ちていたらしい。



「主、おやすみになるのでしたら部屋に行かれたほうが」
「あー…うん、」



ぼんやりした頭のまま受け答えをする。部屋に、ね、うん。わかっている。

だが、意識が持ち上がると同時に再び数々の痛みやだるさが襲い掛かってくる。ずきりと走る鈍痛。…いいなぁ、長谷部は。男の人は。そういうのがないのだから。
そんなことを考えつつ、痛みをどうにか逃がすことはできないかと身をよじる。しかし結局無駄な努力で、まったく何も変わらない。誰よ、努力は報われますなんてことを言ったのは。



「ん…ごめん、今はちょっと、動くの、無理…」
「どこか体調が悪いのですか…!?」



長谷部は心配をしたらしく、失礼します、と断りを入れ私の額に手を当ててきた。風邪ではないから、熱はないのだけど。



「や…うん、だいじょうぶ。ちょっと、眠いだけなの…」



別に原因を言っても問題はない。
ここの刀剣男士たちは私が幼い頃から共にいる。おそらくは、とっくの昔に政府の人からそういった説明はされているのだろう。成長に伴う体の変化と、その他の現象については知っているはずだ。
だがどうしても、言うことが憚れるのは仕方がないと思う。長谷部のことはもちろんとても信頼しているけれど、体のことに関してそこまであけっぴろげに言うことはできない。言った側も、なんとなく恥ずかしくなる。

理由を言えずに心配させていることを申し訳なく思いつつ、額に当てられていた長谷部の手を緩く握る。熱を測る意図があったためか、いつもはめている手袋は外されていた。



「主…?」
「ありがとう長谷部。大丈夫だから、少し…寝かせてて…」



握った長谷部の手は温かくて、不思議な安心感をもたらした。
長谷部が何かを言う前にまた眠気に襲われ、ふっと意識が落ちていった。



*****



通りがかった大広間の襖が開いたままなことに気付き、燭台切は閉めておこうと近づいた。襖に手をかけると、人の気配がする。覗きむと部屋の隅で主人が眠っていた。
驚いて瞬きをした燭台切は、近づいてそっとしゃがみ込む。深い眠りに落ちているらしい主人はあどけない寝顔ではあるが、もう幼い子供のそれではない。

本丸の刀剣でも古参の一人である燭台切は、幼子とはいえ女である主人と共に過ごす都合、ある程度政府から説明をされていた。男の姿である自分たちとは、主人は異なった成長をするということ。成長につれて人の体に起こる変化も。
今朝は少し顔色が良くない気がしていたが、今彼女が眠っている原因が自分の予想しているものであるかどうかは、訊くのは憚られていた。

…合っていたとしても、女の子に訊くのは格好悪いよね。
主人の体を心配するのは、燭台切を始めとした刀剣たちにとって至極当たり前のことではあるが、今や主人は年頃の少女である。デリケートな問題だからこそ、様子を見ようと思っていた。
もちろん、明らかに様子がおかしいと感じればそんなことは気にせず彼女に訊くことになるだろうが。
だが、今の様子を見る限りだと特に問題はないのだと確信できた。
問題があったとしたら、彼女は今ここで寝てはいないだろう。強制的に、安静できる場所へ運ばれているはずだ。心地よさそうに眠る主人が少し身をよじる。

あの長谷部くんがここに寝かせて大丈夫だって判断したなら、今回は大丈夫だね。
彼女に掛けられている、見慣れた紫のカソックを見て小さく笑った。
昼食の時間になったら起こしてあげよう。



(上着を着ていなかったからどうしたのかと思ったけど。そういうことかい、長谷部くん)




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