燭台切光忠はかっこいい。

そんなことは言われるまでもなく出会った時から思っていた。本人的には格好がつかないと思うときもあるようだけど、私からすれば何をしていようともいつだって彼はかっこいいと思う。

一見、もしかしてきつい性格なのかなと思わせておきながら、好青年だ。
予想に反して「僕」という一人称、周りの刀剣たちにもよく気を配ってくれるし、その気配りは私にも向けられているし、実力も高いし。完璧か。



「主、ここにいたの?」
「光忠、どうかした?急用?」
「いや、単純に探してたんだよ。執務室にもいなかったから」
「用があったから探してたんじゃないの?」
「主とゆっくりしたいっていう個人的な用ならあったけどね。急ぎじゃないから」



庭の池で鯉にエサをやっていた私の隣に立った光忠は、そんなことを言う。
そんなことを言うのですら、いちいち様になっているからまたかっこいい。



「そうだったの。じゃあ、ここで一緒にゆっくりしようか」
「部屋に戻らなくて平気かい?」
「外のほうが息抜きって感じがしていいと思うの」
「ああ、それは一理あるね」



内番を終えた後だったのか、今の彼は戦闘服ではなくジャージ姿である。ジャージなのにかっこいいってどういうことなの。元々の容姿が非常に整っているので、きっと何を着ても彼は様になるのだろうけど。
光忠を見ていると眼福だ。ほんとに素敵だと思う。

そのかっこよさゆえに、私の目はとても肥えてしまった。一般的にイケメンと呼ばれる人たちを見ても何も思わなくなってしまったのだ。審神者になったばかりの頃は、同期のイケメン審神者にときめいたりもしていたのだけど、今ではめっきりそんなことは無くなった。イケメン男性を見てもすぐに思ってしまう、「いやうちの燭台切光忠のほうがかっこいいよね」と。

たぶん目が肥えたのは刀剣男士たちが皆、見目美しいからだと思うけど、私にとっては光忠がその筆頭となっていた。



「さすが伊達男・政宗公の刀剣…」
「政宗公がどうかした?」
「うん。光忠のせいで私の目がおかしくなったって話だよ」
「待って、何の話?」



困惑したような表情に、そりゃこの流れじゃわからないよなぁとひとり小さく笑った。



「あのね、光忠って格好いいでしょう?」
「え…、そう、かな?」
「ちょっと、普段から格好にこだわってるのになんで不思議そうにするの?」
「主からそう言ってもらえるとは思わなかったから…」



あれ、私って普段から光忠にかっこいいって言って……、ないな。

うん、言ってなかった気がする。いつも心の中でそのかっこよさを叫んでいるだけで、口に出していなかったことに気付いた。なんてことだ。



「ごめん、違うんだよ!光忠のこと優しいしかっこいいっていつも思ってたんだよ?ただ、内心で叫んでるだけで口から出てなかっただけなの。だから今のは、一時のお世辞とかそういうのじゃないんだよ!」
「あ、主…!?」



見上げて力一杯弁解した私に、光忠の顔はぶわぁと一気に赤くなった。…あれ?

口元を手で覆い、俯いた光忠の反応に私は首をかしげる。なんで、そんなに赤くなっているのだろう。



「あの、光忠さん?」
「…はい」
「照れてるの…?」
「うん…」
「え、なんで!?」



なんで照れるんだ燭台切光忠。

普段から格好を気にしている彼のことだから、そんなワードは言われ慣れているものだと思っていたのに。



「主…、格好を気にするのと、自分で自分を格好いいと思っているのとは意味が違うんだよ」
「…光忠は後者の要素はないの?」
「そこまで自惚れていないよ」



赤い顔のまま苦笑した光忠は、いつものかっこいいではなく可愛いと思った。

そうか、私は随分と彼に妙な思い込みを持っていたらしい。光忠は自分の格好を気にするけれど、決して周囲からそれを言われ慣れているわけではなかったのだ。でも私にとっての、光忠が格好いいという事実と認識は変わらないけれど。



「なんだ、それなら普段からもっと声に出してればよかった」
「一応聞くけど、それは僕が格好いいっていう内容?」
「もちろん。当然でしょう」
「嬉しいけど、普段から主に言われていたら心臓がもたなくなりそうだよ」
「そうかな?」



顔からは少しだけ赤色が引いていたけど、熱そうだなぁと思ってそっと光忠の頬に手を当てた。思っていた通り、その赤みに比例して彼の顔はじんわり熱い。



「じゃあ、これからちゃんと光忠のこと格好いいって声に出すから、慣れていこう」
「主、さ…ああもう…!」
「わっ!?」



なんだかやけを起こしたように、らしくなく髪をぐしゃりとした光忠に手を引っ張られた。

光忠の胸に飛び込む形となり、抱きすくめられた体はかちこちに固まった。



「じゃあ僕も、これからちゃんと主のこと可愛いって、好きだって声に出すから、慣れていってね?」
「え、あの、光忠…?」
「格好つかないから、今はこっち見ないで」
「はいすみません…」



反射的に謝ってしまったけど、私は何に対して謝ったのか。
そして今、光忠はとんでもないことを言ったような気がしたんだけど気のせいだろうか。
可愛いって何、好きって何。それを私に言うって何。

光忠の体の熱がこっちにまで伝導したように、私の体もじわじわと熱くなっていく。少々混乱している中、前髪がそっと除けられたと思ったら額に柔らかい感触が押し当てられた。
びっくりして見上げると、まだほんのり赤い顔をした光忠を近距離で見る羽目になり心臓が跳ねた。



「もっと、格好良く言うつもりだったんだけどなぁ」



今の彼はさっきとは違う理由で、こんなに照れ臭そうな顔をしているのだと思う。
安心して光忠、今のあなたもいつも通り、いやそれ以上にとても格好いいです。肥えたはずの目も潰れそうになるほどだ。そろそろあなたの腕の中で卒倒しそうですよ。

でもとりあえず、そんな顔をして私を抱きしめる理由をもう一度言ってほしい。





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