憂鬱プロローグ
私はとてつもなく人付き合いが苦手であった。人と関わろうと努力をしなかったわけではない、少なくとも五年前までは。
私はごく普通の一般家庭に生まれた。父はサラリーマン、母は私を大学まで進学させてくれようと午後3時までのレジ打ちのパート勤務。父は多忙だったが母がいたから寂しくなかった。それに父は一月に一度ファミリーレストランで外食に連れて行ってくれるくらいには私と母のことを忘れてはいなかったようだし、表情はないが時折学校での様子を訊いてくれたりもしていた。なんやかんやで私たち家族は幸せだった。家庭内では、この3人で、いる分にはである。
学校という狭い社会に送り込まれてからは、どれだけ私という人間が周囲から過大評価されているかを思い知らされることになった。周囲から感じる視線、それは羨望であったり、妬み、僻み、恨みに近いものさえ私に降りかかってきた。前半では私がいかに凡庸であるかを語ったが、何故こんな私が周囲の人間からそんな視線を浴びせられているのかというと、なんのことはない。
顔である。私のこの顔は、世間の皆様が大層憧れる美貌のまさにそれであった。少々大袈裟やもしれぬが、鏡でみるところどうやら嘘ではないらしかった。母親譲りの焦げ茶色の瞳はぱっちりと二重瞼に、鼻筋はすっと通っている。切りそろえられた前髪に、色素の薄い毛先だけくるりと巻かれた天然パーマ。桜色の唇から紡がれるは、まるで小鳥の囀りである。ほっそりとした体つきの割には、胸だけはそれはもう豊かであった。純然たる美少女。前世でどれだけ徳を積んでもきっと私にはなれない、それはもう地上に舞い降りた天使。
何度鏡の前で絶望したことか。この顔のせいで、この顔のせいでと鏡の前で嘆くこと計12回、そのうち10回は母が冷めた目でお玉で殴って切って捨てられた。
何故嘆くのかって、私には友達がいなかった。
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Michele