「す、すてぃ……」
「泣きそうな顔してどうしたんだい?ナマエ」
いやスティーブンさんの所為ですけど。そんなこと言えば状況が悪化することなど、赤子でも本能で分かるんじゃないかってぐらいにひしひしと感じる、スティーブンさんの今すぐにでも目の前の獲物を食べたいという欲求。逃げようにも私の両手はスティーブンさんの両手でベッドにホールドされてて逃げられない。
ことの起こりは今日の執務室。ここ一週間お互いミッション等で時間があわずに居たのだけど、久々にスティーブンさんが家に招いてくれるということで精一杯おしゃれをして、ディナーも事前に仕込んでおいた羊肉を持参して挑んだ。……はずだったのにどうしてこんなことになってるんだろう。セットしてきた髪は寝っ転がってしまってボロボロ、焼いて飾り付けも終えた羊肉は今頃冷めてしまっただろう。混乱と一抹の恐怖で涙が浮かぶのぐらい許してほしいのに、何故この人は「何故?」なんて聞くのだろう。ぐいぐいと彼の胸を押しても退いてくれる気配は微塵もない。
「僕が何に怒ってるのか、分からないのかい?」
「……スティーブンさん、怒ってるんですか?」
「ああ、よーく思い出してごらん」
「そんなこと言われてもこの一週間全くお話してないのに……」
「じゃあヒントをあげよう。ヒントはドーナツ。流石に分かるだろう?」
ドーナツ、が関係するイベントはひとつしかない。私が朝から3時間も並んでやっと買えた有名店のドーナツ。それをザップさんが事もあろうか勝手に食べてしまったのだ。しかも奪い返せたのは10個入ってたうちの2個。(ちなみにスティーブンさんは笑ってて助けてくれなかった)……でもこれとスティーブンさんが怒ることの何が関係あるんだろう?むしろ怒るのは助けてもらえなかった私じゃないだろうか。
「ザップの食べかけに食らいついたでしょ、君。女の子がそれってどうなんだい?」
「どうなんだい、って。どうなんでしょう?」
「………はー。君ね、仮にも俺のだろ?本命の目の前でじゃれついた挙句間接キスってどうなの?」
「スティーブンさん助けてくれなかったじゃないですか!!」
「俺はいいんだよ。」
自分勝手かよ!!!私はいやいやと顔を背けるけどそんなのほとんど無力で、私の唇はいとも簡単にスティーブンさんの唇に奪われる。こうなったらもう浸入してきた舌に自分の舌を絡めるしかない。いつの間にか離していた両手で頭の後ろと腰回りをしっかりホールドされる。腰に添えられた手がいやらしく伝うのが本当にいただけない。ぞわぞわとする下腹部を必死に抑えて私は押し寄せる感情に耐え続けた。
しばらくして満足したのか「続きはあとでね」と言ったスティーブンさんがキッチンへと消えていった。恐らくメインディッシュを温めにいったのだろう。続きが気になって仕方なくて、肉の味なんてわかったもんじゃないわよ全く!