もうこんな時間か。キリが良い所でナマエと昼食にでも出かけようと思っていたのだが、気づいたら短針はとっくに12を過ぎていた。昼食は諦めて夕食にでも誘うかと切り替えた俺はナマエ?と書類の壁の向こう、ソファに悠々と横になっているであろう彼女の名前を呼んだ。すると返ってきたのは何故かくぐもった彼女の声。

「君何してるの。リスにでもなるつもりかい?」
「ひはふほ」
「ほらほら飲み込んでから話してくれ。何ひとつ聞き取れないじゃないか」

 ソファを背もたれ側から覗き込めば、頬をぱんぱんに膨らました姿。恐らくその手に持っている大量のマシュマロが原因だろう。彼女がごくんと飲み込んだのを確認してもう一度聞いてみる。

「君何してるの?」
「マシュマロ食べてたの!ギルベルトさんがたくさん買ってきたからって」
「……あんまり詰め込むなよ、仮にもレディだろ」
「いや仮でもなんでもなくまごう事なきレディだよ?スティーブン」

 そう言って再び詰め込み出した彼女の姿に俺は盛大にため息を吐くしかなかった。もう少し女っ気というか、色気があってもいいんじゃないだろうか。あ、まああんまり色気がありすぎても他の男に狙われるから、現状維持が丁度良いと言えば良いのかもしれない。

「ああそうだ、君、誰かとディナーの予定は?」
「え?誰かとの約束はないけど、今日はローストビーフの仕込みを終えて来てるの」

 だからいつものトラットリアには行けないよ、と目の前の彼女は申し訳なさそうに告げた。俺からしたら、寧ろ好条件なのだけれど。

「なら帰りは車で君の家に一度行こう。それでローストビーフだけ持って俺の家に来れば良い」
「いやでも、」
来 れ ば 良 い。そうだね?」

 半ば威圧的に承諾を得た俺は「じゃあ5時には終わらせるよ」と彼女に告げて再びデスク上の書類と睨めっこを始めた。





 あの後難なく宣言通りに書類との戦いを終えた俺は、助手席にナマエを、後部席にローストビーフを乗せて揚々と帰宅した。彼女のローストビーフはそれはそれは絶品で、ヴェデットのそれに劣らないものだった。

「君あれだけ食べたのにまたマシュマロか?よく飽きないな」
「だってギルベルトさんが私にって選んで買ってきてくれたマシュマロだよ?全然飽きないの!」
「……あのなぁ、」

 恋人といる時に他の男の名前を出すなよ。言い聞かせるよりも身体に教え込んだ方が早いだろうと、俺は彼女の口内のマシュマロを唇ごと掻っ攫った。俺にとっては甘すぎる人工甘味料の味にべーっと舌を出して彼女に見せつける。彼女は真っ赤な顔を一気に真っ青にさせて、慌てた手つきでマシュマロのパッケージをカバンの中に仕舞った。
 そうそう、俺といる時は俺だけを考えてればいいのさ。そうだろ?ナマエ。


肝に命じた




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