「うっ……ぐ……ひぐっ……」
「おいぃ〜……いい加減泣き止めよぉ〜……」

異変に気付いたのは朝のミーティングの時だ。スターフェイズさんの全体連絡が終わる間際、まるで腐った飯でも食ったかのように不細工な顔をしていたナマエが視界に入った。女なんてのは月のものだったり何だったりで機嫌が悪い事が珍しいことではないと流石の俺も承知していたから、その時はスルーした。けれどしばらくして迎えたランチタイムでもあいつはなんとも言えない表情を浮かべていた。声をかけようにも自室に籠られてしまえば手の出しようはないわけで、俺は扉の向こうにいるであろうナマエを想像して溜息を吐いた。

苦手な書類整理に嫌々向き合っていた俺は、ナマエの自室の方から物音が聞こえたのを合図に顔を上げた。いつの間にか迎えていた帰社の時刻に慌ててあいつの元に駆けていく。幸いまだ部屋からは出てきていないようで、俺は珍しく緊張感を持って3回ノックした。返事もなく開いた扉からはあいも変わらずなんともいえない表情のナマエが顔を出している。入る?とぶっきらぼうに聞かれたので遠慮なく中に入る。長話は嫌いだ。だから入室想像お前どーしたんだよ?と本題に入った。それがまずかった。どういうことかって?つまりここから冒頭のやり取りに戻ると言うわけだ。

「なぁ、泣いてちゃ百戦錬磨の俺でも分かんねーよ」
「百戦錬磨なのは下半身だけでしょぉばかぁ!」
「………お前なぁ、」

やっと喋ったと思えば俺へのディスりかよ!!!いいけどよ!!!言いたいことが山ほどある俺を他所に、ツッコミで喉のつかえが取れたナマエはぽろぽろと話し始めた。俺はそれを一字一句零さないように耳を傾ける。

「さいきんね、もやもやするの。胸のあたりがきゅーーってするんだ。病気かなって思ったけど、お医者様はどこも悪くないって。病気じゃないならなあに?怖いよザップ。私死んじゃうのかな」
「………ずっともやもやすんのか?」
「今は平気。なんだろ、ザップと一緒の時は少し楽になるんだ。一昨日のミッションペアだったでしょ?その時と今、ちょっと楽だもん。」
「………そうかよ。」
「………!!ザップ顔あか、」

最後まで言わせずぎゅっと抱きしめてやる。顔を見られたくないのもあるし、こうでもして無いと衝動が抑えきれそうに無いからだ。ざっぷ、ざっぷ、と幼く呼ぶナマエもさぞかし真っ赤な顔をしているのだろう。俺もなかなか真っ赤な顔をしているのだろう。熱がこもって暑くてしゃーねぇ。

「ざっぷあのね、今一瞬凄く心臓ば跳ねたけど、今凄く楽だよ。ザップは魔法が使えるの?」

馬鹿で幼稚で安易な発言をしているが、当の本人はさぞかし生真面目に考えた結果なのだろう。だからライブラの箱入り娘は嫌いなんだ。もうそろそろ待てそうにねーからよ、早く気づいてくんねーかなホント。

それは世間で言う所の、恋って病気だろ。


ゆるやかな糖度がきみを蝕む




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