「ママーみてー、へんなヤツが歩いてるー!」
「……へ?」

突然浴びた非難に私が目を白黒させていると、ひんやりとした掌が私の方を優しく叩く。ぼくです、ぼくのことです。そう言って彼は私を背に隠して非難を発した少年にゆっくりとした動きで近づいていく。

「君の価値観を否定するつもりはない。けれど、君のまっすぐな言葉を今間違った人が受け取ってわずかながら傷ついた。君は彼女に謝る義務がありますよ。ね?」
「……うるさい魚顔!!人間に指図するな!!!」

そんな捨て台詞を吐いて離れていく少年を、これまたこちらを怪訝な顔で見ていた両親らしき人達が呼んでいる。……ここはゲットーヘイツにほど近い公園で、花壇の花が咲き始めて綺麗だからと私から誘ってやってきた。ツェッドくんとの久々のデートに自分でも驚く程浮かれていたというのに今は気持ちも急降下、まさかこんなことになるなんて。ゲットーヘイツに近いことを考えればこんな状況も予想できたのかもしれないけれど、そもそもこんなことを予測しなきゃいけないことがおかしいわけで。一体あの家庭はどんな教育をしてるっていうんだ!私はくすぶる怒りを抑えるように、足の指先にぎゅっと力を入れた。手はダメなの。ツェッドくんが気付いてしまうから。

「ナマエさん、今度は足を痛くしますよ。僕は大丈夫ですから、行きましょう?何処の花が綺麗なんでしたっけ」
「……別に怒ってなんかないよ」
「貴方嘘がつけないって自覚ないんですか?大方、こないだ手を痛めるからと僕が言ったから、靴の中ならバレないとでも思ったのでしょう?まだまだ甘いですね。貴方は」

そう言って少し寂しげに微笑んだ彼は私の右手を大切そうに取って、行きましょうと急かすように引いた。ねぇ、どうして分かったの?大丈夫だなんて嘘でしょ?君が大丈夫だとしても私が大丈夫じゃないよ。本当に謝るべき相手は私じゃなくて貴方にでしょ?伝えたいことがたくさんありすぎて溢れすぎて、気づけば目的地である花壇の前についてしまった。「ヒヤシンスでしたか。紫色がとても綺麗ですね」と言う貴方の心の方がよっぽど綺麗で、そんな純粋な貴方が生きていくにはいささかこの世界は醜すぎる。
大好きな貴方を守れない自分を、まるでヒヤシンスは嘲笑っているようだった。


※紫色のヒヤシンス:ごめんなさい/許してくださいの意。


ヒヤシンス




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