「スティーブンさん、すきです」
「ああ僕もだよ。ありがとう、行ってくるよ」
「ああっそうではなくてっ!……あ、行っちゃった」
執務室から出て行ったスティーブンさんの背中を見送った私は、彼の好きと自分の好きの温度差に落胆してソファに深く深く沈み込んだ。私は仲間としてではなくて女の子として好きになって欲しいのに。へこたれる私に嫌みな笑みを浮かべたザップがまあまあと諭すように話しかけてくる。
「54回目の失恋。もう諦めろよ、な?」
「ザップやめてよ!伝わらなかっただけだもん!振られたわけじゃないもん!」
「でもこれだけアタックしてればあのスティーブンさんなら気付きそうなもんですけどね。意外と鈍感?」
「気付いてるけどあしらわれてるって線もあるぞ?」
「………う、」
「げっ!!なななな泣くなよ?!俺が泣かせたってバレたら姐さん達に殺される……!!」
「わああああああんザップの馬鹿あああああ!!あとスティーブンさんも馬鹿ああああああ!!!」
「ナマエさん!?……あーあ、出てっちゃいましたよ、お悔やみ申し上げます」
「………クソが。」
涙と鼻水を必死に啜ってるけどなかなか止まる様子はない。私はさっきのやり取りを思い出してまた惨めな思いになる。どうしたら伝わる?どうしたら好きになってくれる?視線の先の噴水は、私以上にキラキラひかっていて、ちょっと辛い。噴水に負けた気分になるなんて、なかなかキてるなぁ……とベンチに座ったまま空を仰ぐように仰け反った。
「あれ?今日は事務所で書類整理じゃなかったのかい?」
「すすすすすスティーブンさん?!!」
なんでスティーブンさんがここに?!!と跳ねるようにベンチから立ち上がれば「ゲットーへイツに買い物に行っただけだよ」と見慣れた紙袋を私に見せて、一緒にどうだい?と頭をかしげてみせた。
「あーおいしかった!ごちそうさまでした、スティーブンさん」
「君は相変わらず食べ方が綺麗だったな」
「え?」
「以前接待で一緒にディナーに行ったことがあるだろ?その時も先方がとても褒めてたよ」
普段スティーブンさんに褒められることなんて殆どないから、耐性の無い私は顔がすごく暑い。スティーブンさんが愉快と言わんばかりにくすくす笑っているから、今の私はさぞかし真っ赤なのだろう。いたたまれなくなったけどこの場を去ることなんて出来る筈もなくて、私はうう、と両の手で顔を隠した。すると瞬間感じる冷たい指先。私の耳をいたずらにくすぐる。止めて、そんなことしないで。だって私……。
「……てください、」
「ナマエ?」
「私に興味がないのならっ、こんなこと止めてくださいっ!!!」
54回。告白する度にあしらわれては何がいけなかったのだろうと考えた。もっとスティーブンさんにふさわしいレディになりたくてテーブルマナーを勉強してみた。そしたら接待に同行させてもらえるようになった。少しずつ一緒にいる時間が増えて、どうせ敵わないならいっそ忘れてしまおうと、恋心に何度も別れを告げては、忘れきれずにもう一度、もう一度と哀れな程繰り返してしまった。うつむく私の視線に入った手の先が震える。
「我が儘を言っていることは分かってます。でも、もう限界です。本気で付き合う気が無いのなら、スティーブンさんなりにちゃんと振ってください。じゃないと私……」
そこまで言ってふと動作を感じないスティーブンさんに違和感を感じて、そうっと視線を持ち上げた。するとどうしたことか、顔を真っ赤に染上げたスティーブンさんが口を半開きにしてこちらを見ているではないか。
「スティーブン、さん?」
「……今までのは本当に振るつもりで言っていたよ。それは嘘じゃない」
「っだったら……!!」
「けど、人間っていうのは何時恋に落ちるかなんて分からないんだよ。らしくないことを言うようだけど、どうやら……泣いてる君を見てどうも落ちてしまったらしいね、君も今はまっている……恋の沼ってやつにさ。」
信じられない言葉にもう一度と催促すれば、止めてくれと耳を塞がれてしまった。今スティーブンさんを見てると壊れちゃいそうだ。慌てて視線をそらした先の噴水のきらめきは、私たちを祝福してくれているようだった。