無事にミシェーラちゃんの視覚を取り戻したレオは「ナマエまたね」と告げて彼女の元へ帰っていった。当然のことだし、何ひとつおかしな点なんてないはずなのに、なんだろうこの空っぽになってしまった心は。ああそうか、私寂しいのか。レオを乗せた飛行機が去ってもしばらく、私はその場から動き出すことが出来なかった。
それ以降の私は見てられない有様だった。任務ではターゲットを逃すし、料理では塩と砂糖を間違えるし。挙げ句の果てには自宅に帰るところを通い慣れたレオの家目前まで来てしまった。とんでもないミス続きで、流石に見ていられなかったのか、スティーブンさんとクラウスさんから無期限休暇を命じられてしまった。休みを貰ったところで仕事が趣味の私からすれば気分転換も図れずただただ時間が流れていくだけだった。
休みを貰ってから二週間が経ったある日、スティーブンさんから突然仕事を貰った。HLにやってくる重役の送迎。……二週間のブランクには重すぎないですか。そんな文句もほどほどに、慌てて着替えとメイクを済ませてハイヒールをひっかけた。階段を降りるとやあ、と右手を上げたスティーブンさんの姿があった。まさか送迎付きだなんて。私は足早に彼の元に行き、車に乗り込んだ。
「いやあ悪いな、突然の任務になって」
「いえ、久々の仕事が戦闘任務じゃなかっただけスティーブンさんの優しさだと思ってますから」
「おや?それは暗に俺を悪く言ってるのかい?」
「んーどうなんでしょう?」
「君ってやつは……まあ休み明けでそれだけ軽口叩ければ今日の任務は問題ないだろう」
「ふーん……」
私は流れていく景色をぼうっと見ていた。スティーブンさんに「せっかくの一張羅、そんな握り込んだらシワになるんじゃないか?」と言われてやっと我に変える。扉を開けてエスコートしてくれたスティーブンさんは車に残ると言った。私一人?……ああ、しっかりしなくちゃ。
スティーブンさんから受け取った待ち合わせの目印を探してさまよっていると、強い力に肩をつかまれて私は危うく転びそうになったが、その強い力の主が受け止めてくれたので事無きを得た。私はあわてて謝罪の言葉を発して数歩後ずさった。すると背後の主は見覚えのある人物だった。
「……ジェラール?貴方ジェラールなの?」
「ナマエ久しぶりだなぁ!元気にやってたか?!」
「馬鹿、ちょっと音量さげてよ恥ずかしい」
レオがライブラにやってくるまではよく組んで仕事してたなぁ……懐かしさに目を細めていると、ジェラールが「つーか何でお前俺が来るって知らなかったんだ?」と不思議そうに尋ねて来た。そんなのスティーブンさんに言って欲しい。先に言っておいてくれれば変に緊張なんてしなくて済んだのに。……実はちょっとだけ、レオなんじゃないかって期待していた。だって普段だったら1から10まで叩き込んでくるスティーブンさんが、今回は重役なんて表現でごまかすから。私は失念していた。彼は確かに紳士的ではあるけれど、そんな気の利いたことが出来る程ではなかったってことを。
「……ナマエ、泣いてんのか?どっか痛いのか?」
「うっ……じぇら、る、ごめ……」
「その子から離れろ!!!」
耳を疑った。嘘だ。彼がここに居る筈がないもの。私はおそるおそる視線を声のした方に向けようとしたが、勢い良く抱き寄せられて視界が真っ黒になった。この服、この匂い。嘘だ、でも、そんなはずは。
「ナマエ大丈夫?!!痛いとこは?」
「れ、お?」
「うっわすげー顔……ほら涙拭いて。無事でよかった」
「え?無事って、「いやあおもしろいものを見たなぁ。」
そういって愉快だと全身で語ったのは何故か車内に残ってる筈のスティーブンさんだった。私は事態が飲み込めずにおろおろしていると、ジェラールまでもが笑い出した。「ごめんなーナマエ」と謝る彼にただただ何が?という疑問しか浮かんで来ない。そんなちんぷんかんぷんな私をよそに状況を理解したのかレオは私をぎゅうぎゅうに抱きしめながら不機嫌そうな声を上げる。
「全部スティーブンさんが仕込んだことですね?おかしいと思ったんスよ、手紙の内容もそうですけど、わざわざ日付指定されたチケットが同封されてるなんて!」
「あはは、少年はカンがいいなぁ。まあいいじゃないか。自力でこっちで戻ってくるのは金銭的に大変だったろ?良いものを見せてもらった駄賃だと思ってくれよ」
「………ナマエガチ泣きなんですけど。」
それは君の所為だから知らないなぁ。とまたまた愉快そうに喋るスティーブンさんに、今にも噛み付きそうなレオ、そしてグルでごめんなーと謝るジェラール。ああ、ここでレオと遭遇するように仕込んでたってこと?あーそうですか……泣いたのは少しバカらしいけど、レオが居るから、まあいいか。
「レオおかえり」
「ただいま、ナマエ!」