「や、やだ………っ」
初めてのキスは、自分の涙の味と後頭部を鈍器でがん、と殴られた音がした。僕はあまりのショックに彼女が去ってその後しばらく、その場から動くことが出来なかった。スクーターのハンドルに乗っていた相棒の音速猿には「ドンマイ元気出せよ」と哀れみの目で見られた。猿に慰められる僕って一体何なんだ。
「ただの童貞だよな。」
「いやそういう話はしてないし、そもそもザップさんには言ってないっす。僕はギルベルトさんに相談してるんです」
「ンだとコラナカすぞ」
キーキー騒ぎ立てるザップさんを他所に、ギルベルトさんは顎に手を添えてなにやら考え事をしているようだ。ああ、とワンフレーズ置いてから出た結論は至極真っ当なもので、けれど自信を欠片も持っちゃいない今の僕には到底断言出来るものではなかった。
「ナマエ様は本当に嫌だったのでしょうか……嫌よ嫌よもなんとやらと言いますでしょう?」
何時ものようにランチタイムを外でとろうと言い出したザップさんに「後から行くからエンジンやってろ」と言われてしぶしぶ一人で出てきた僕は、相棒であるスクーターに腰を下ろした。あー、切ない。何が楽しくて恋人ではなく野郎二人でタンデムしなきゃいけないんだ。たかが恋。されど恋。たった一人の女の子の言動ひとつでこんなにも沈むのだから、人間ってなかなかすごいと思う。ふと足音が聞こえてやっと来たかと思ったけど、伏せた顔を上げる気もしなくてそのままそちらを見ることもなくザップさん遅かったですねーと発した。……あれ、なんで返答が返ってこないんだ?
「ききき聞いてない……ザップさん聞いてないよ!」
「は?え?ちょっ、ナマエ?!!」
予想外の声の主に思わず跳ねた身体はスクーターから落ちた。そんな僕にナマエは不安げな顔で駆け寄って怪我がないかを訊ねてくる。あー、ホント馬鹿みたいにいいこ。嫌な思いをして3日間も距離を置いてた相手にこんな風に普通手を差し出せる?僕はうぬぼれていいのか?その手を掴むか迷っていると、彼女の手は半ば無理矢理僕の手をひっぱりあげて、あっというまに僕の目線の方が高くなった。未だ混乱気味な僕をみて、ナマエは何があったのかを話してくれた。
「ザップさんから珍しく二人で行こうってご飯に誘われたのよ」
「あの人と二人っきりってだいぶ危なくない?」
「……ごめんなさい」
「あっいや別に謝ることじゃないけどっ!……無事で良かった」
「あ、えと、そっちじゃなくて……3日前、の」
なんか恥ずかしくて、つい。そこで言葉は途切れてたけど、全文を理解するには十分すぎた。ギルベルトさんすごいエスパーなのか!と内心驚きつつも、ぶっちゃけもうソレどころじゃなくて。本気で嫌がられたわけじゃないと調子に乗った僕は勢いに任せて3日振りに彼女の唇を奪った。荒々しいソレに必死に答えようとする彼女の姿に、思わず理性が揺れたのは死んでも言えない。