※夢主が偏執王と普通に仲が良い設定。
※絶望王も夢主も報われない。



するりと頬を滑った手が冷たくて思わず身震いした。少しずつ近づく彼の顔にあーキスされるなぁと思ったところで制止した。露骨に不満げな彼は、なんだかんだ大人しく身を引いてくれるんだから優しい。なんで止めたんだよ。怒ったように拗ねたように言うのがおかしくて思わず吹き出した。

「いつも言ってるじゃない。貴方は絶望王であって絶望王ではないじゃない」
「そんなに身体がブラックなのが気にいらねーのかよ」
「そうじゃなくて、私はマウストゥマウスでキスするなら貴方としたいの。ブラックとしたいわけじゃないわ。」

そんなこと言われても困る。表情でそう告げた絶望王は髪を撫で上げてため息をついてみせた。露骨にそういうことするところは優しくないなぁ。そんなことを言った日には容赦なく食べられちゃう気がするからそっと口を閉じた。アリギュラから見たら私の行動は酷く愚かなことだそうで、この何度繰り返したか分からないキスの攻防戦を報告する度に「ナマエの馬鹿〜〜!!」と怒られてしまう。私が偏執王だったらどれだけよかったことか。余計なことは考えずに彼だけを求められたらどれだけよかっただろうか。そんな物思いにふけっていると、私の視界が暗くなった。この場には私と彼しかいないのだから犯人は間違いなく彼だ。私が何事かと顔を上げれば、彼にしては酷く珍しい、苦笑じみた顔で私を見下ろしていた。

「皮肉にも改めて自分の名前が自分らしいと実感できたよ」
「あら、絶望王は今何に絶望してるのかしら?」

知らないフリ気づかないフリは得意だ、得意でいなきゃいけない。私は作り笑いを崩さずそういえば、そっと近づいて来た彼――絶望王の唇がそっと私の頬に触れて、がり、という音が響いた。

「実らない、実らせてもらえねー恋なんてモンに振り回されてることに絶望し、た……」

言い終える前に彼の身体は私の前に沈んだ。しばらくして目覚めた彼はもう彼ではなく、身体の本来の持ち主であるブラックだった。

「おはようブラック、よく寝れたかしら?」
「おはようナマエ…わ!僕寝ちゃってた?!ごめん……」
「ううん、ぐっすり眠ってたね。寝顔可愛かったよ」
「やめてよー!ってどうしたのその顔!痛そう……」
「ああこの噛み痕のこと?これはね……





たちの悪い犬に噛まれちゃったのよ。本当にたちが悪いわ。」

結局最後までキスをしないのは、彼なりの優しさだと知っていた。その一線を越えたら二度と彼を―――いつか去っていくであろう彼を忘れられないから。そんな私たちをみてアリギュラはまたいつものようにあきれ顔で「馬鹿ねえ」って言って。ねえお願いよ。


その痣が消える頃、僕を忘れて




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