「風邪ぇ?!!スティーブンさんが?!!」
「ちょっと待ってナマエ、その言い方だと多分後で番頭に怒られるぞ」
「………風邪?」
「聞いてんのかコラ」

柔くこづかれて現実に帰ってきた私だけど、聞きなれない事実になかなかしっくりこない。あの完璧人間スティーブンさんが、風邪。

「大丈夫かなぁ」
「心配なら見舞いでも行けばいーじゃねーか」
「お見舞い……?」
「お前はいちいち脳内タイムリープすんな」
「あいたっ!」

今度こそ力の限り背中を叩かれて、私も戦闘員とはいえ流石に涙が滲んだ。ザップを恨めしく思う反面、こういう時はやたら妙案を思いつく彼に譲歩して仕返しは止めておこう。
おかゆ、たまご粥にしよう。あと果物。考え付く最大限看病っぽいメニューを思い浮かべてから、私は彼の近所のディスカウントショップへと足を向けた。





「やだ、鍵開いてるじゃん…」

あの細微まで神経質な完璧人間の彼にしては珍しく、不用心に鍵は開けられていた。チェーンもされてない。私は取り出しかけた合鍵をバッグのサイドポケットに戻してから、息を潜めるようにキッチンへと向かった。
ヴェデットさんの手によって変わらず綺麗に整頓されているキッチンのおかげで私はスムーズにたまご粥を作り終えた。……おお!なかなか良い出来だ。
先ほど氷枕を替えに行った時も頭に触れたにも関わらず、彼はうんともすんとも言わなかった。相当厄介な風邪を引いたんだろう。日頃の行いが悪いんだな、特にミッションのためとはいえ、女関係かな。うん。





やることを全て終えてしまった私は、リビングにある大きなソファにもたれて持ってきていた雑誌をぺらりぺらりと捲っていた。氷枕を替えてからしばらくたったのに、彼は一向に起きてくる様子はない。流石に水分位は取らないとまずいだろうと思った私は、重い腰を上げて再び彼のいるベッドルームへと向かった。変わらずすうすうと安らかな寝息を立てている彼の顔はとても綺麗で、思わず頬に触れてしまった。手から伝わる熱はとても高くて、これで氷使いだと言うのだから可笑しい話だ。

「ん……、」
「あ、ごめんなさい!起こしちゃいましたか?」
「………ナマエ、ナマエ」
「ふふ、何ですか?今日のスティーブンさんはなんだか甘えたですね」
「……だ、………て、……ナマエ」

うわ言のように繰り返す言葉を捕まえようと彼の顔に耳を寄せた。私の耳がキャッチした言葉は唐突なものすぎて一瞬フリーズしかける。あれ、もしかして私も風邪、ひいてた?

(すきだ、側にいて、ナマエ。)


体調不良で逃げ出したい




ALICE+