「……げっ」
「げってなんだよ傷つくだろ」
「……ご注文をどうぞお帰りください」
「どういうことなの?!注文していいの?!帰ってほしいの?!」
「帰って欲しいけど売り上げは欲しい」
「お前なかなか最低だな」
「うるせーよオタニート」

悪かったな、そう呟いた彼チョロ松は、私の真正面のカウンター席につく。まじまじとメニューを見ることもせず丸っこい指先でとん、とドリンクを選べるのは、それだけ彼がここに足を運んだ証拠である。
私ははいはいいつものですねーなんて下手くそな接客をしながらシェイカーを取り出す。週に3回もチョロが頼むものだから、このメニューだけやたら上手くなってしまった。

「ソーダ多くないか?それ」
「多めにしてんの。これ飲んだらさっさと仕事探しなよね」
「……いつ辞めんの?ここ」
「やっと見つけた好物件なのに辞めるわけないでしょ」
「ガールズバー以外にもあっただろバイトなんて」
「どの口がバイトなんてって言うわけ?」
「うぐ………反論できねぇ」

日中は大学生やってるから無理。高時給で話を聞くのが好きな私には他にはない天職だと言うのに、コイツはやれ酒飲みが危ない、やれ帰りが夜中で危ないと喚いては、私にバイトを辞めるようすすめてくるのだ。

「……心配してくれるのは嬉しいけどさ、私チョロと違って生活費と学費稼いでんの。分かる?これ以上ない条件の職をおいそれと捨てられるわけないでしょ?」
「生活費が心配ならウチに来ればいいだろ。いつも母さんが言ってるじゃん、飯食べに来いって」
「クズニート6と違って私はすねをかじらないんですぅー。まあ玉の輿なら喜んでって感じだけど」
「!………言ったな?」
「大丈夫チョロには期待してないから。ほら飲み終わったらさっさとハロワ行けハロワ」
「………また来る」
「次はたくさんお金落としに来てね!」

うるせーよバーッカ!!!と叫んで乱暴にドアが閉まる。足音が遠のくのを確認してから足元に丸まった赤いパーカーをぐい、と引っ張り上げた。

「ぐえっ?!ちょっとナマエ勘弁してよ〜リバっちゃうよ?」
「引き摺り出す。」
「何を?!!こっわ〜ナマエそれはモテないやつだよ〜おそ松くんビビっちゃうよ〜〜〜」

ニートに言われたくねーよ。口に出しても効果がないことは数年の付き合いで理解してたが、目線でくらい訴えさせて欲しい。当然効くわけがないのだけど。私の視線に気づいてか違うのか、悪戯っ子のような顔で私を見て、容赦なく核心に触れてくる。

「お前、チョロ松が来てくれるから辞められないんだろ、ココ。」

チョロのカップにわずかに残ったサワーを一気に煽る。おそ松に視線を戻せば、苦笑した顔で見られていた。彼の瞳に映った私は今にも泣きそうだ。

辞められるわけないじゃない。だって私、チョロのことが。


そのやさしさがいちばんずるい




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