「え?一年生の子たち?可愛いと思う、かなぁ。こないだのお休みね、せっかくの同級三人でのお出かけだったのに、わざわざ私にも声をかけてくれたのよ?優しいわよねぇ」

 お前鈍感すぎじゃねーか?と目線で訴えたところでコイツが気づく訳もなく、棘やパンダに向き直って呆れ顔をするしか無かった。おかかぁ……と匙を投げた棘に同意しかない。





 真希ちゃんに一年生のことを訊かれたので思った事をそのまま伝えたら、彼女だけでなく棘くんとパンダくんにまで呆れられてしまったようだけれど、私は何が彼らをそうさせてしまったのかが分からず思わず苦笑が漏れてしまった。

 先日行った映画は、元々五条先生と4人で行く予定だったらしい。…のだけれど、先生が急遽出張になってしまったそうで、勿体無いから一緒に観て欲しいとのだった。他にも候補はたくさん居ただろうに、その中から真っ先に私を選んでくれたのだから嬉しくない訳がない。
 映画の後も私に行きたい所や見たいものを尋ねてくれた。疲れてないですか?ナマエさん荷物持ちます!と特に声をかけてくれた虎杖くんはいっとう可愛く思えた。歳の離れた弟はいたが、歳が変わればまた感じ方や見え方が違うのだなぁと、どこか温かい気持ちになった。
 その日はお言葉に甘えて、次一緒にお出かけをする時に着て欲しい服を3人それぞれコーディネートして買い与えた。野薔薇ちゃんと私で双子コーデにしたら、やたら伏黒くんの目線が刺さり、虎杖くんはずっりーぞ釘崎!!!とドヤ顔の野薔薇ちゃんに噛みついていた。虎杖くんがあまりにも騒ぐので、追加で4人色違いのユニセックスパーカーを購入した。すると彼は「おおぉ……」と感嘆の声を漏らしながら目をキラキラと輝かせていて、それもまた私の気持ちを温かくさせた。





 ふと、その時購入したパーカーが今着ているものだと思い出してフードを被ってみせると、生温かい目でパンダが微笑み、フード越しに頭を撫でてきた。何故。

「その無垢さがある意味ナマエの良さだからなぁ」
「しゃけしゃけ」
「うーん、術師としての強さに結びつく方が嬉しいかな」
「ナマエ二級術師様が何言ってんだか」
「もぉ〜真希ってばそういう言い方ぁ……」

 無垢という、呪術界とは程遠い言葉に私は何とも言えない気持ちを抱く。言われるのは今に始まったことでは無いけれど、もう少し強みになりそうな言葉が欲しいところである。
 ふと人の気配を感じて談話室の入り口を見ると、任務帰りの一年生たちが賑やかさを連れてやってきた。私に気づいた虎杖くんが一瞬目を見開いてから、ナマエさんナマエさん!と足早に駆け寄ってくる。今日も元気に帰ってきてくれたようでホッと胸を撫で下ろす。

「ナマエさんが着てる!オソロのやつ!」
「任務後なのにどこからその元気出てんのよ」
「やめとけ釘崎、馬に蹴られるぞ」
「え?高専って馬いんの?」
「「馬鹿っていう馬がいる。」」

 へぇー!と言っているが、伏黒くん達が言いたいのは虎杖くんの事なのだろう。馬鹿なのかは横に置いておいて。コントじみたやりとりにクスリと笑うと、何故か目の前の虎杖くんがぽんっと頬を紅くしてしまった。元気に見えていたけれど、実は風邪でもひいていたのだろうか。長引いては大変だと慌てて医務室へ促したが、それは他の面々にとめられてしまった。

「今ので分からねーなら末期だな」
「俺も真希さんに同意です。……虎杖お前脈無いぞ」
「無ぇもんは作りゃぁ良いだろ!」
「虎杖アンタ向上心斜め上過ぎて首折れてるわよ」
「折れてねーーーよ!!!」

 喧嘩を買った虎杖くんは再び2人の元へ戻ってゆく。喧騒の中、私は伏黒くんの言葉を反芻する。脈が、無い。流石の私でもそれの意味する所を理解した。虎杖くんはちゃんと此処で息をしていて、何ならずっと野薔薇ちゃんたちとやんややんや賑やかにしている。
 そういえば、あの映画に行った日。最初に声をかけてくれたのは誰だったっけ。次も出かけようと、3人のコーディネートを考えるきっかけを作ってくれたのは誰だったっけ。そして、彼らの中で唯一、何気ないことで私の心を温かくしてくれるのは、誰だった、っけ……

「わっわわっ……」
「「え、」」「しゃけ?」

 思い至った結論に思わず顔が熱い。両手で顔を隠して暫く、指の隙間から辺りを見回すと、2年のみんなが驚いた顔でこちらを見ていた。……のも束の間、全員が悪い顔で虎杖くんに振り返った。みんなの視線を辿った先の虎杖くんは、いっとうの輝きを放って私に駆け寄り抱きしめた。みんなの前とかお構いなしだ。ぎゅうぎゅうとひとしきり抱き締めて満足したのか、少しだけ緩めてくれた彼は、真っ赤になった私を見て、嬉しそうにここ一番の爆弾を投下した。

「俺、次はナマエさんと2人っきりで出かけたいっス!」

 私、この笑顔が守れるなら、まだ当分無垢なままで良いです……

title by エナメル
どストレートワンコ虎杖と無垢(を越えて超鈍感)な先輩ヒロイン、そして本当は出張なんか無くてただチケットを一年ズに強奪された哀れな五条先生。



春が来るのはあなたのせいです




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