世間がクリスマスだの年末年始だの騒げば騒ぐ程、私たちはそこから遠い場所に放り込まれていくのにはもう随分慣れてしまった。今日も今日とて大晦日?何それ状態で西へ東へ奔走していた。こういう時ばかりは呪力の多さに産んでくれた両親に感謝だ。





 分配された仕事を終えて高専の事務室に赴いた頃には、時計はとっくに年越しを迎えていた。思わず出そうになった溜め息を飲み込んで、巫山戯て「時計さん明けましておめでとう」なんて零してみた。万年人不足のこの業界において、毎年このセリフは使われる事なく腐る。代わりに実家には寒中見舞いだけは一筆送っていた。つまりはそういうことだ。決して血縁ではないけれど、言ってはいけないような気がしてもう何年言ってなかったかも分からないその挨拶を漏らした。

 五条の計らいで学生さんとの任務が増えたおかげで、仕事は増えたが笑いは尽きない。きっと冬休みが明けた折には「あけおめッス!」なんて軽快な声が高専に響くのだろう。そう思うと今年の年始はなんだか気持ちが軽いような気がする。

「ナマエが元旦早々に笑ってるじゃん」
「覗き見なんて趣味が悪いよ、五条センセ?」
「あ、その響きなんかやばい、新しい扉開きそうなので今日の五条術師は閉店です」
「まだ日付跨いだばっかりだよ?」

 噂をすれば何とやら。私に学生の任務同行担当を半ば押し付けるように命じたご本人の登場である。例年だと彼は御三家としての挨拶回りがあるとかで、年末には帰省していた筈だ。なにかあったのだろうかと彼の言葉を待っていると、一言だけ残して文字通り消えた。私の苦情を受け付ける気は一切無いらしい。

『お前明日から婚約報告がてら京都。正装はこっちで用意するから荷物纏めといて』

 もっと先に言っといてくれ。
 そう内心では思いつつも、彼の事だ。前々から言ったところで私が変に緊張することを案じたのだろう。なんだかんだ久々の二人での外出に喜びを隠しきれない私は、足早に荷物を纏めに自室へとむかうのだった。左手の薬指では、任務の傷まみれの指輪が楽しげに煌めくのだった。


左手だけが知っている




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