「あ、ゾエさーん!」
「およ、ナマエちゃんじゃん!シフト明け?」
「うん!今日はお夕飯カゲくん家でって親に言われてて」
「なーるほど?じゃあ一緒に隊室行こっか」
ぱあ、と花が咲くように笑うこの子は隊長・カゲの幼馴染みであり、所属していた隊が解散して以来フリーのA級隊員として活躍中の苗字ナマエちゃん。人手不足なボーダーでは度々補充要員として防衛任務に現れる。ウチでも近距離補充としてやってくることも珍しくない。何よりカゲの幼馴染みということで彼が大層可愛がるものだから(当のカゲは無自覚なので藪蛇な発言はしない)、自然とうちの隊員とも仲が良い。
とはいえこの距離感は如何なものかと思いながら、今日も輝く瞳に負けて伸ばされた両の手に応えるように背負ってあげる。ぐんと上昇した視界に嬉々としているのは大変微笑ましいが、この後痛い目を見るのは間違いなく自分であり、ある意味カゲである。そんなことなーんにも知らぬ彼女は「北添号、しゅっぱーつ!!」なんて右腕をぶん回している。……元気なのは良いことだと思うよ、ゾエさんは。
長い廊下を進んで隊室のドアキーを解錠して、背中の彼女を降ろして室内へと促す。案の定ソファにもたれるカゲからの視線はじっとりと此方に向けられている。しかしそんなもの、彼女さえいれば問題ない。カゲくん、とナマエちゃんにソファの背もたれ越しに耳元で囁くように名前を呼ばれた瞬間、ひょいと持ち上げ、背もたれを越えてカゲの膝の上に向かい合う形で座らせていた。視界がぐるんと変わったことが楽しかったのか、背負った時よりも一段と喜ぶ彼女に、我らが隊長が僅かに微笑んだのは見逃しようがなかった。
彼女が無垢な少女で良かった。兄妹のような雰囲気だから皆なんてことないように振る舞っているが、カゲの心中がどうあるのかなんてそれなりに長い付き合いだ。底知れぬ劣情が潜んでいることは分かりきっている。ナマエちゃん自身はカケラも気づいてなさそうだし、カゲ自身も当分はこの距離感を楽しむつもりなのだろう。
改めて言うけど彼女が無垢でまだあどけない容姿の少女で本当に良かった。だって、同い年の美女だったら目に毒でしかない光景なのだから。