Case.10
ナマエと出逢ったあの白い塔は、鍛錬ではなく人工的に海軍の技能を身に付けさせる実験をしていたらしい。検体の殆どは施術後に心身共に余りある力に喰われて亡くなっているようだ。ナマエにチップまで埋め込んで、しかし捕まえることはなく自由にさせられていたのは、結局実験の経過観察でしかなかったのだろう。本来戦争孤児だった筈のアイツを人間とも思ってネェ海軍の暗い部分に反吐が出る。ひと通り目を通し終えたそれは、唯一鍵のかかるチェストの奥に仕舞い込む。きっと二度と開かれることはないだろう。「キャプテーン、お昼は自室で食べるんでしたよね?持ってきたので入っていーですか?」
「入れ」
「今日のお昼はワンプレートランチでーす」
音も立てず器用にカートを押し入って来たナマエは、俺の関心を他所にプレートを指差しながらメニューをひとつひとつ説明していく。今日の当番はシャチとナマエだったらしく、どのメニューをどっちが担当したかまで嬉々とした様子で話している。そんな様子を見ていると、途端、言葉が止まり視線がプレートから此方へ向けられた。じっと向けられた瞳は何処か聡いというか、見透かされている気がして余り得意ではない。
「何だ?」
「……また何か隠してる」
何か隠してる。その言葉には悲しみと悔しさが滲み出ていた。私じゃ聞かせられない事なのかと、暗にナマエは言っていた。
白い塔の書物とは別に、くすねてきた資料。それはパンクハザードという島に関するものだった。悲願を果たす為にお前達を巻き込む気はねェ。俺は俺のエゴで復讐を果たすのだから。だから、話さない。話せない。
「ま、無理には聞きませんけど?キャプテンが勝手ばかりしてると私も少し考えますよ」
腕を組んでふん!と胸を張った彼女は、茶化したように今の空気を無かったことにしてカートと共に部屋から出ていった。
そんなナマエが自前の水上バイクでポーラータング号から一人出ていってしまうのは、このやり取りからそう経たないうちの事だった。
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ナマエは物事への嗅覚だけは良かった。キャプテンが一人で何かを抱え込んでいることなど、私じゃなくても分かっただろうが、その為だけの七武海加入だったと予想してたのはきっと私だけだろう。
海軍本部で"あの人"と会った時、自然と得ていた情報のピースが綺麗にはめ込まれて、これまで累積していた何故が全て見渡せた。ああ、キャプテンはこの人に会う為に。憎いこの男を引き摺り下ろす為に、感情を殺して軍の犬になったのだろう。きっと刺し違えてでも本懐を遂げるのだろう、我らがキャプテンは。でも私はそれを許さない。キャプテンには生きて私たちを照らして貰わねばならない。だから、私はハートのクルーとして、ハートのクルーをやめて此処に来た。
「そのハートの空席を私に寄越せ、ドフラミンゴ!!」
「威勢の良いオンナは嫌いじゃネェ!奪えるもんなら奪ってみな!!」
背負っていた鞘から抜刀し、紅のコートを翻してドフラミンゴに真っ直ぐ向かう。私はトラファルガー・ローに出会った時から、ずっとずっと救われていた。生きている価値を与えられた。世界の広さを教えてもらった。それで充分じゃないか。
これから紡ぐのは、私がキャプテンを救う物語。