Case.2

 やっとこさ辿り着いた次の島は無人島のようで、資源が豊富な夏島だった。クルー達は久々の陸地、しかも人目を気にしなくて良いということもあってかビーチでバカンスを楽しむ者ばかり。そんな中、能力者である俺は特別気乗りするはずもなく、甲板にデッキチェアを出して読書に勤しんでいた。普段なら薬草や食料を探しに行くところだが、着いたばかりの島で育ったものが本当に安全かどうか、判別が得意なベポとナマエに先遣隊と称して任せてある。安全だと分かった時に、薬草だけ探しにいけばいいだろう。
 ベポはミンク族ゆえに感覚が鋭いのは勿論だが、ナマエも生い立ち故の膨大な知識量と人間離れした感覚を持っている。土壌汚染の可能性も加味してその辺は柔軟に結論を持って帰ってくるだろう。表面だけ見て分からないことも、あの二人が組めば水中も陸地も全てお見通しなのがウチのウリだ。

「キャプテーーン!!問題ないよー!!」
「念の為枯葉付きの大木からは何も取らないでねー!そこまでの深度だと土壌の安全性は保証できないでーーす!」

 砂浜から甲板にいる俺にわざわざ戦利品を掲げて呼びかけるナマエの意図を察して、シャンブルズで一気に甲板の上まで戦利品ごと引き寄せた。キャプテンを足で使って、と思う輩もいるかもしれないが、バカンスに夢中のアイツらの手を煩わせたくないという気持ちを優先したのだろう。かくいう俺も同じ事を考えていたから同じ穴の狢、というやつだろう。

「あ、薬草もざっと見たんだけどね。媒介に使えるものはあっても単体で使えるものはあんま無さそうでした。私が知らない品種があった可能性はあるけれど」
「媒介に使えるならコストを抑えられる。充分だ」

 食料と同じく薬品も有限だ。コスト削減出来るならそれに越したことはない。船医である以上、外科知識だけではどうにもならない。本人は自覚が無いようだが、薬品に関する知識だけなら俺よりも優っているんじゃねーかと思う時がある。知識を詰め込まれたのが幼少期らしいので、知識の更新や新しいものを取り入れる必要こそあれど、基礎は充分だ。
 ハートのクルーはあいにく医療に明るいのは俺一人だ。知識だけで言えばナマエと2人だけ。大規模なオペをする時は決まって薬品準備にナマエを駆り出している。低身長なこと以外は何の文句もない良い薬師、とでも言えようか。

「みてみてキャプテン、これすっごく美味しいの!マンゴー系かと思って飲んでみたら柑橘系でベポびっくりしてた」
「毒味済みってワケか」
「キャプテン酷いよ!……誘惑に負けたのはそうだけどさぁ」

 確かに見た目や感触はマンゴーやヤシの実に近いものを感じるが、ベポがくり抜いた穴から中身を舌先で味見すると、成程確かに柑橘系の香りが漂う。好んで甘味を口にする人間ではないが、これなら読書の片手間に楽しめそうだ。

「ねねキャプテン、これ後でもっと取りに行こ?絶対紅茶に淹れたら美味しいよ!果肉は無いけど水の代わりに使えばパウンドケーキとか白身魚のソースとか、色々使えるし!」

 目をキラキラと輝かせて此方をみるナマエは、おそらく俺が話しに乗ってくれるよう、用意周到にここまでの会話を考えてきたのだろう。輝きの中には僅かに策略を感じて、そこで素直に頷ける程俺は大人では無かった。
 視線を少しばかりずらして考える素振りを見せるだけで失敗したかとあわあわしだすコイツが、可愛く無いわけがない。ナマエがしょぼくれる手前でふ、と笑えば「やられた!」と何処か悔しそうな彼女に、駄賃の先払いとしては十分かと、デッキチェアからたった。

「ナマエ、オメーは薬草探しに付き合え。ベポ、こっちは頼んでいいか?」
「アイアイキャプテン!」

 次に行くシャボンディ諸島までの束の間の休息。ここから世界は大きく動くなんてこと、収穫した果汁で何を作ろうか想像を膨らませているナマエはきっと欠片も思っちゃいないだろう。

(いつまでコイツの安寧を守れるかも分からねーな)

 そう遠くない海軍との接触に、果たしてコイツを連れていくべきなのか如何か。島に留まる暫しの間、俺は思い悩むこととなった。
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