Case.3

 キャプテンがシャボンディ諸島を出て間も無く、人身売買に続いて今度は処刑を観に行くなんて言い出すので、そういう趣味か何かなのかと勘ぐっていたら、見透かされたのか拳骨を食らった。痛い。観に行く、と言うものだから海軍に喧嘩でも売るんじゃないかと私は内心ヒヤリとしたが、ポーラータング号は終ぞ島に寄せる事はなく、動きがあったのはおそらくこの戦争において本当に最後の最後、あのシャボンディでかちあった麦わらのルフィの姿が視界に入った時だった。此方に寄越せと叫んだキャプテンは、目配せだけで私に彼を拾ってくるよう指示を出す。空中へと駆け出した私を海軍達が見逃す訳もなく、挙句瞬時に己の"正体"を見抜いたであろう人物は、驚きこそすれ此方を追う速度は一切落とす様子はない。

「あの娘、何故海軍の……まさか貴様ン!」
「わあぁ撤退撤退!!キャプテン!!」
「上出来だ、行くぞ!!追手を振り切るまで全力で進め!」
「「アイ・サー!!」」

 潜水すべく速やかに重体の彼ら、麦わらのルフィと海侠のジンベエを運び込み閉じられた窓越しに見えない筈の大将赤犬の姿を見つめた。私は思い出して身震いすると、慌ててキャプテン達の元へと駆けて行った。





 術後しばらくして、まだ身体を起こして良い訳ではないが落ち着かないのだというジンベエさんを丸椅子に促してこれまでの話を聞いた。曰く、ルフィくんは監獄島からずっと戦いっぱなしだったのだという。しかも一度死にかけたにも関わらず、実質ドーピング剤を打って身体に鞭を打つように、マリンフォードのお義兄さんの元まで駆け抜けた。
 しかし救えたと思ったのも束の間、ポートガス・D・エースの身体はマグマに貫かれ、目前でお義兄さんを亡くしたのだと悔しさを噛み殺すようにジンベエさんは拳を握りしめる。ジンベエさんもまたエースさんやかの白ヒゲに恩義があり、彼らを、そしてルフィくんを救えなかった事で己を強く責めていた。私はそっと力強い拳に手を添えて言葉を紡いでいく。

「私には……家族?兄弟?そういう繋がりが心にどう作用するのか、よく、分かりません。でも、絶対に言えることがあります。いま貴方が無茶をして、彼が目覚めた時に傍にいてあげられないことはとても悪い事だと」

 ぱっと上げられた瞳は先程までの薄暗いものではなく、希望を感じる明るいものだった。拳の力が緩んだ頃、ようやっとジンベエさんはもう片方の手で私の手を包みながら微笑んだ。

「……お前さん、ナマエさんと言うたか」
「はい、ハートの海賊団のナマエです」
「ナマエさん、恩に着る。暫し厄介になる」
「キャプテンが勝手に拾ったんだから気にする事じゃないですよー。寧ろ勝手に助けてポイなんてしたら私が怒ります!」
「ハハハ!これは威勢の良いお嬢さんだ」

 私がジンベエさんの朗らかな人柄にホッとしていたこの時、物陰からキャプテン達がひっそりと様子を伺っていたことには、ジンベエさんだけが気づいていた。





「ハートの海賊団と思しき奴の中に"剃"を使う奴がおった。いや、ありゃあ月歩か。かなりの練度で習得しちょった」

 軍法会議の場は一瞬でどよめき、そして沈黙した。かの様な者が存在するということを、多くの者は「海軍を抜けた者が海賊になった末路」と考えた。然しながら現実は違うと、大将や一部の関係者は知っていた。

「奴の名はナマエ、かつて海軍で拘束していた"一般人"じゃ。経緯までは知らんが、脱走した先があのルーキーの所とは、厄介な話だの」
「やっぱり脱走した時点で懸賞金付けとくべきだったんじゃなァーい?」
「そげなこと、海軍直々に認める事になる。出来ん事ぐらい分かるじゃろ黄猿」
「ヤダナァ、怖い怖い」

 彼女自身がどこまで事情を漏らしたかは分からない。しかし生存を確認した以上、なんとしても捕らえねばならぬ。……彼女が命を落とす事になったとしても。
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