あなたに孤独は似合わない

 迅悠一は未来が視える。幾つもの選択肢の中から出来る限り最善のものを選び取る、そんな取捨選択の日々。しかし今回分岐はなく、揺るぎない明瞭なビジョンにはじめは目を丸くしたのを昨日の事のように覚えている。今日この日をまだ見ぬ"彼女"にとって安全に、少しでも幸福に迎えられるように出来る事は尽くしてきた。あとは彼女自身が何を選び、何を捨てるか、ただそれだけのことだ。
 間延びした挨拶と共に入室した会議室には、界境防衛機関本部の上層部の面々が控えていた。迅からの緊急招集ということもあり、心なしか面持ちが強張っている。まあ俺のせいなんだけどね。

「突然で悪いけど、今から客人が来るよ」
「なっ……!侵攻もガロプラも来てまた?!」
「ああ根付さん安心して、敵意が無いのは分かってるから。寧ろ鬼怒田さんがすげー可愛がってる未来が視えてる」
「ワシか?!!」

 驚嘆の響く会議室の中で、城戸司令と忍田本部長、それから唐沢さんは静かに俺の二の句を待っていた。長い付き合いだ。俺が意図せずこんなギリギリまで予知を伝えないなんて無謀なことはしないとわかっているのだ。信頼には誠意で応えなければ。

「最初に遭遇する太刀川隊、というか太刀川さんには伝えてあるよ。必要だと思って遊真にはまだ本部に居てもらってる」
「嘘を見抜くサイドエフェクトか?」
「んや?多分だけど、その客人、遊真と知り合いっぽいんだよね。だからアイツ居た方が話がスムーズだと思う」

 あまりの根回しの良さに笑うのは唐沢さん、苦笑いを浮かべるのは忍田さんと根付さん、変わらぬ表情で俺を読もうとするのはやはり城戸さんだった。さぁ、あとは"お前"次第だ、どうする?



「玄界はどんなとこかなぁ」
『貴方の好奇心が擽られる国だといいわね』
「この前の国家は古書以外は今ひとつだったからね。あーあ、これなら有吾さんにもっと玄界のこと聞いとくんだったなぁ……」
『ユーゴ達と会ったのももう何年前かしらね』

 ぶうぶうと口を尖らせた少女は、彼女の乗っている飛空艇のアナウンスとの会話で巡ってきた国々を思い返しながら、件の古書を捲っていた。近界で多くの国を渡ってきた少女は、同様に多彩な言語に触れてきた。しかし学びはしたものの、未踏である地"玄界"に彼女は強い憧れを抱いていた。

『さあ門を開くわ、キチンと座っていて頂戴』

 アナウンスと共に暗闇から一転にして開けた視界。そこは夜であるはずなのに絶えず明るく灯された地だった。小さな飛空艇から降り立った少女−名をナマエという−はたまらず言葉にした。

「天にも地にも星空があるなんて……」
「こりゃあロマンチックなこと言う奴が来たな」

 愉快そうな声に少しだけ緊張しながら視線を向けると、敵意は無いとでも言いたげに両手を挙げながら此方へと歩を進めていた。始めての場所でも言葉が交わせるということは、相手もトリオン体と云うことだろうか。飛空艇だったものは光を発して小型化したが、変わらず少女の側を牽制するかのように漂っている。

「はじめまして、ナマエといいます。この子は自律型トリオン兵のナル。私達は永住の地を求めて星から星へ旅をしています。此処は玄界で合っていますか?」
「玄界だったら、どうするんだ?」
『ナマエはかつての恩人の故郷に、一度でもいいから来てみたかっただけなのよ。もし敵とみなされているならすぐに此処を発ちますわ』

 だからこの子には何もしないでくださいな。トリオン兵なのに何処か悲痛さを感じさせる声色でそう告げる家族同然のナルに、ナマエは思わず下唇を噛む。

「ちょっと太刀川さん!温かく迎えてって迅さん言ってたじゃないっスか!あーもー大丈夫?えっとナマエさんだっけ?オレは出水、出水公平。よろしくな」

 出水の慌てた様子を見てなはは、と笑い出した太刀川と呼ばれた男を見上げて、思わず「えぇ〜……」と声が漏れ出た。なんだか気の抜けてしまう人達だが、ひとまず命の安全は一旦、保証されたようだ。胸を撫で下ろして先行く二人についていくことにした。此処が旅の終点ともまだ知らないで。

リンク文字少年にキス

コード

20220917公開
Image by Matthew Brindle from Unsplash.



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