恋煩いもままならない
米屋達とソロランクでも潜ろうかとフロアを見渡していると、昨日見たのにもう馴染みを感じる白いトリオン兵と迅さんの姿があった。此方に気づいた迅さんは手を振りながらこちらに寄ってくるので、こっちも迅さん達に向かう。
「迅さん珍しいっすね、太刀川さんに捕まりますよ」
「今は風間さん達に捕まってるだろ?」
「はは、レポートの鬼も居ますよ」
「二宮さんか、これは視逃したな」
へらへらと笑いながら観戦席に促されるままに座ると、おれの好きなジュースが手渡される。軽く会釈してプルタブに指をかける。飲みながら聞け、ということだろう。
「ナルがランク戦を観たいらしいんだが、俺はこの通り手があかなくてね。お前さえ良ければナルに付き合ってやってくんない?」
「ナルの迎えは?それに目立ちません?」
『今は人目がないけど、いいお返事が貰えたら小さくなるワ』
「迎えに関しては、お前らがランク戦してるうちに来るよ」
頼み事を持ってくる時点でこの人相手に拒否権なんてあってないようなもんだよな、なんて思いながら、特段断る理由もないので快諾した。すると宣言通り掌サイズにまで小さくなったナルが俺の肩に乗り、その姿を迅さんはサングラス越しに"視て"いた。外し直したサングラスを首に引っ掛けたまま迅さんはおれの瞳をじいっと見てからにぃ、と口角を上げた。
「……いいねぇ、若いって」
『アラ、未来は無限に広がってる。そう言ったのは迅じゃない』
「ナルは"そう"なってほしくないか?」
『マァ……少し、寂しいといえば嘘になるワね』
俺の知らない話を交わす二人。ナルを通して視ていたのはナマエの未来だろうか。あえて振られてもいない話に入るほど無粋じゃない。しいて言うならきっとあえて俺の前でこのやり取りをしているのかな、と思うくらいには、迅さんは無駄なことはしない人だと思ってる。
「お、もーすぐ米屋と駿来るから、あと宜しくな」
「実力派シューター出水、了解〜」
「はは、サマになってるよ、じゃあな」
「ってな訳で、今日は俺と一緒にナルも仮想フィールドに居るけどよろしくな」
「米屋りょーかーい」
「ねぇねぇ、ナルは何が見たいとか具体的な希望はあんの?」
『純粋にアナタ達の戦いを観戦したいだけヨ。普段通りで構わないワ』
機械の筈なのに感情豊かに感じさせるナルは、微笑むように有難う、と付け加えた。本当に他意はなく、「玄界の仮想フィールドという技術を実際に見たい」という探究心からのようだった。ナマエもナルも、そういう所は似通っているんだろう。何処か楽しそうな米屋はナルを一瞥してから俺を指差した。ヒトを指差すな。
「ならいつも通り十本勝負、最初は弾バカとオレだな」
「バカってゆーな槍バカ」
『フフ、仲が良いのね。ミドリカワ、アナタも蔑称があるのかしラ?』
「おれは無いかな!」
「「迅バカだろ」」
「だから無いって!!」
文句を言う緑川を残して俺はナルとブースに入って米屋の部屋番を選択する。ナルは俺にくっついていれば自動転送されることは、既にナル自身が鬼怒田さんに確認済みらしい。
『これが仮想フィールド……』
「隊室だともっと色々細かい設定変更できるよ、玉駒も出来ると思う」
『各支部にもあるというコトね』
「そゆこと」
「あっこは宇佐美いるからもっと凝ったコトやれンだろ」
「お、米屋」
『アア、彼女とアナタは血縁者だったワネ』
「そっか、お前ら従兄弟だったか」
確かに元風間隊だった彼女は凝ったトリオン兵を作ったり、パラメータをいじって擬似的に誰かを再現したり、そういった事は容易だろう。実際遊真からにのまるなるものが生まれたらしいと聞いたし。何だよにのまるって。
『念の為伝えると、ワタシは観測者だから手出しはしないワ。あとうっかり攻撃が来ても大丈夫。ただ、ワタシが受けたものは全て鬼怒田サマの所にデータとして集積されるからネ』
「ウワーこりゃ尚更手ェ抜けねーなァ」
「元々米屋もおれも手は抜かねーだろ」
「……分かってないネェ、それとも気づいてないフリ?」
突き立てた槍に寄りかかりながら首を傾げる米屋は何処か挑発的で、ムッとはしたが、言葉の意図までは汲みきれず言葉で何か返すことはしなかった。
「まーいーや、やろーぜ弾バカァ」
「蜂の巣にしてやるわ槍バカめ」
そんなおれらを他所に米屋の言葉を意味を理解していたナルがクスリと笑っていたのは、モニター越しの緑川だけが気づいたとかそうでないとか。
コード
20220917公開
Image by Matthew Brindle from Unsplash.