久々のミッション参戦で緊張しているのか、ナマエのヤローの顔色が優れない。というかコイツが参戦する時に顔色が良い日なんてあったか?大体重要で危険なミッションにしか参加出来ないから、場数が踏めねーとかなんとか確か言ってたな。あ、すいませんスターフェイズさんちゃんと聞いてます聞いてます。ナマエがいるとコイツの一喜一憂ばっか気になってミッションが全く耳に入ってこねぇ。「顔色よくないぞ?」と伺う番頭に「平気です」なんて苦笑気味に漏らしやがって。それ先に俺が気づいてたっつーの。
ミッションは上々な結果だったと思う。前衛にあたった俺とスターフェイズさんとクラウスの旦那に、ナマエは無言で血液の供給をし続けていた。ミッション前の顔色、久々のミッションでの過度な緊張、そして久々の大量供給。今思えばミッションなんかが始まる前に気づけたはずなんだ。ミッションを終えておいナマエ、と声をかけても返事が無く、苛つきながら振り返ったが、そんなもの一瞬で吹っ飛んだ。
戦闘不参加のはずのナマエが、血だらけで倒れてた。
「……本当ですか?Dr.ルシアナ」
「ミスターラインヘルツ、貴方に冗談言ったことなんて一度もないでしょ。恐らく能力の酷使に身体が追いついてないのね。とくに大量供給は心臓にかなりの負担をかけるから。ま、しばらくは能力を使わないでミッションに参加するか、休むことね」
「っでも酷使って言ってもナマエはほとんどミッションには……」
「レオっち、ナマエっちはミッション外で使うことも多かったのよ……もっと注意して見てあげてるべきだったんだわ!」
「おめーもたまに使うだろ、ミッション外でも義眼の力」
「あっ、」
ナマエのバイト先までの道のり。女がひとり歩きするには危険な区域だ。アイツは絡まれたり襲われたりする度にその能力を使って逃げていた。それに加えてここ数週間はミッションへの参加が多かったし、人一倍負担のかかる能力なだけに、倒れるには十分すぎる状況だった。
「んう………ここは……」
「オウ目ぇ醒めたか。ミッション後に倒れたんだよお前」
「みんなは?」
「ミッションの事後処理に戻った。ここにいるのは俺だけだ」
そっか。と零したナマエの顔は、起き抜けの所為か目はとろんとしているし頬は赤いしで、俺は抱きたい感情をなんとか抑えて平常心で接する。オメーも起きたし俺も戻るわ、と言い切る前にナマエにジャケットの裾を掴んで「行かないで」と言われる。ああちくしょう普段だったらぜってーいわねーだろソレ!!ひっぱられるがままに椅子に座り直すと、一緒に帰りたいと言いだす。
「馬鹿言うなよ。オメーは入院だ入院。」
「ここで寝てるのか家で寝てるのかの違いでしょ?なんならザップのとこでもいい」
「ばっ……!」
馬鹿言ってんじゃねーよ!!!家ならともかく俺が連れて帰ったら、あらぬ疑いをかけられて炎と氷と弾丸に殺される。100%殺される。まあ疑いというか、既成事実を作りかねないから困る。俺は根負けして泣く泣くナースコールを押した。
「え?家で寝てたい?いいよー」
「良いのかよっ!!軽いなっ!!!」
ナースコールで飛んできた女医は、触診や心音などを聞いてからけろりとした顔でそう言い放った。いいのかよ。いや良いならいいんだけどよ。なんだか腑に落ちないまま俺はヘルメットをナマエに放り投げる。エンジンをふかしながら横目にナマエを見れば、まだ寝ぼけているのかどうなのか、キャッチミスしたヘルメットをのろのろとした動作で拾い上げていた。おらナマエ来い、と呼んで、ヘルメットの留め具をつけてやる。顔の距離につい頬が上気しかける。寝ぼけてる所為とはいえ、俺だけこんな初心な反応してるのが気に食わなくて、止め終わった合図に思い切り上から叩いてやった。ざまあみろ。
「ザップ、電話なってるよ!」
「今でれねーから代わりにナマエ出ろ。右ポケット」
「はいはい……っと。もしもし兄さん?」
走り出してそう経たないうちに俺の携帯に一報が入る。非常事態発生の緊急召集。集合場所を確認して急いで向かう。やむを得ないとはいえ、コイツを連れて行くことに嫌な予感がして仕方ねぇ。これが数時間後本当に当たるんだから、野生のカンはあなどれねーよ。
「ザップ!!!」
起きて数時間が経てば、さすがの私も目が冴えるというものだ。こんな状況を見てしまえば尚更。緊急召集に兄たちよりも先に現場に付いた私とザップは、恐ろしい程のプレッシャーを放つ血界の眷属に襲われていた。
大きな弧を描いて瓦礫に突っ込んだ茶褐色のそれは、唸るけれど動かない。いや、動けないんだ。私はかつてないピンチに寒気を感じる。震える手でザップの手に握られた見慣れたジッポを掴む。あばらを数本やられたのか、ザップは「逃げろ」とは言えるけどジッポは容易に手から離れた。あまりの緊張で浅い呼吸しか出来なくて苦しい。でもやるしかないんだ。力一杯に握り込むと、いつもより幾分か長い針が掌に突き刺さる。いつもとは違う鈍い痛みに少しだけ涙が滲む。
「やめろ……逃げろ、ナマエ」
「でもそしたらザップが……!」
「あと数分で旦那たちが来る……だからお前だけでも、」
「逃げるよもちろん。」
ザップと逃げられる隙を作ってからね。以前ザップに行った時のことを思い出しながら血界の眷属から血を抜き取る。相当数の人の血を溜め込んだのか、混ざり合い毒と化した血液に、頭も身体も熱を持ち過ぎて溶けてしまいそうだ。ぐらつく視界をなんとかザップに向けて、悟られぬように笑ってみせた。
「ザップ、立てる?捕まっていいから少しでも遠くに」
「ああ悪ィ……ナマエ?」
「うっ……げほげほっかはっ……」
「(喀血?!)ナマエ!!まさか能力の酷使で……!」
ふと視界の外でからん、と軽い音が聞こえた。きっと兄が封印してくれたのだろう。これでもうザップは大丈夫だね。安堵感から私は駆けつけてくれたレオに「あとはよろしく」と伝えてそっと目を閉じた。
あれ。こんなおしまい、前にもあった気がするな。
前と違うのは、意識がシャットダウンする直前に、ザップが私を情けない声で呼んだのが聞こえたことかな。おやすみザップ。(生きててくれて本当に良かった。)
きみじゃあないと治せない