結局あの戦いの後、ナマエのヤローは一週間ほど目を覚まさなかった。その間のライブラは本当に酷いもので、ミッションはちゃんとこなしていても、どこか身が入っていなくて。お通夜状態が続いていた。やっと起きたと思えば開口一番に「みんなどうしたの?」なんて笑うもんだから、怒りを通り越して呆れとため息しか出なかった。しかも見渡していた目が俺を見つけた途端、まるでいたずらを見られてしまった子どもみてーな顔して「ザップごめん」なんて言いやがった。うまく吐き出せない感情に、つい俺は椅子を蹴り飛ばして部屋を出た。「ザップさん!」なんて引き止める声は聞こえないフリだ。前にクソアマがランブレッタの上でやったようにな。
ナマエが目覚めてからさらに1週間で退院が決まった。旦那とギルベルトさんに支えられながら戻ってきたナマエは、いささか痩せたような気もする。シラネ、俺には関係のないことだ。
退院してから3日ほど経った日のことだった。困り果てたような声でギルベルトさんが忙しくはないかと聞いてくる。俺とレオはいーっすよと手短に返答する。了承を得たギルベルトさんは普段なら見ないような不安げな顔で話しだす。「ナマエ様が退院して以来お部屋から出ていらっしゃらないのです。お食事もいらないとおっしゃってまして……」その言葉にとうとう我慢ならなくなった俺は、ナマエの部屋のノブを回した。が、鍵がかかっていて開かない。ギルベルトさんはマスターキーを持ってくると言って執務室へ戻って行ったが、そんなの待ってられねぇ。俺は今、この瞬間に、あいつに言ってやらなきゃ気が済まねぇことが山ほどあるんだ。
レオの制止を振り切って俺はドアを無理矢理蹴破った。部屋を見渡すと、これだけ騒ぎ立てているのにまるで興味がありませんよ、と言っているように思わせるほど無関心に背を向けているアイツの姿。
「クソナマエてめーなぁ……!!!」
「ちょっとザップさん落ち着い……て、」
無理矢理こちらを向かせたナマエの顔は泣き腫らして真っ赤だった。まぶたは何度もこすったのか少しだけ血が滲んでいた。俺は思わず肩をつかんだ手を離す。何が起こったのかいまいち飲み込めていないナマエは、次第に理解出来たのか、ゆるっゆるに緩み切った涙腺からまた一筋涙を零した。
「わた、し。皆の……ううん、ザップの力になりたかった」
「ナマエ……おま、」
「でも私の能力は使えば使う程みんなに迷惑かけちゃう、からっ……」
「……お前は十分頑張ってんだろ」
「自惚れられるほど自分に自信なんかないよ!!みんながどれだけ傷ついても血を送って戦うことを迫るしかできないから……すきなの。ザップのことが、すきなのに、守りきれなかった。一人じゃ戦えない。私の力じゃ誰も守れない。だから……隣にいる資格なんてないの」
薄々気づいてた(というかスターフェイズさんに強制的に知らされた)こいつが俺のことをすきだということ。それを初めて直接言われたことへの羞恥心とナマエが泣き出した事への驚愕で、上手く言葉が出てこない。言いたいことは山ほどあったというのに。
ああ、お前が自惚れたりしない人間なのは知ってる。どれだけ好意を匂わせることをしたって、俺の口から伝えない限り……いや、伝えたってお前は両想いに気づいてくれないのかもしれない。俺とお前の抱えた感情は違うのでないかと、隙を見つけては感情を殺すんだろう。知ってる、痛いほど知ってるさ。こんなに近くにいるのに。手を伸ばすのが酷く恐ろしかった。今の生臭いぬるい関係すら失うんじゃねーかと、互いに手を伸ばしては空を掴んでたんだ。
でももうそれもおしまいだ。もう大丈夫だ。たった一言、捻くれきった俺でも言えるさ。
「お前がどれだけ資格がねーだの自信がねーだの騒いだって、俺は一生テメーの隣に居座り続けるからな。嫌だって言っても聞かねーぞ。」
レオとギルベルトさんがいることなんか関係ねぇ。3日も食ってねえだけでこんなに弱々しくなるのかってぐれえ細い身体を力一杯抱きしめた。耳元でそっと待たせてワリィ、なんて柄にもない台詞を吐いたのは、俺とお前だけの秘密だ。
title by joy / 改変有り。
君は僕のものにはならないけれど、僕は君のものだよ。