「レオ、ザップ、悪いが少しだけ残ってくれるかい?」
「改まって何なんスか?別にいーっすけど」
「僕も大丈夫です」
「悪いね。いつかは話す時が来ると思ってたけど、まさかこんな早くに来るとは思わなかったよ。なあクラウス?」
「二人とも勿体ぶらずに早く言ってくださいよ」

 ああそうだったね、と組んでいた足を解き前屈みに俺とレオを見るスティーブンさんからはピリピリと冷え切った空気が漂っていた。俺は促されるままにレオの隣に座る。今この場には俺たち4人しか居ない所為か、先程のお祭り騒ぎと打って変わって静まり返っていた。

「レオナルドくん、あの時君はまるで…何のようだと言おうとしたんだい?」
「………あ。」
「ああ、そういやーファイルを置いた音で遮ってましたけど、何か問題があったんすか?」
「内容によるな。さあレオナルドくん教えてくれ給え」
「クラウスさん、僕は、」
「元々私とスティーブンは分かっていたことだ。聞かせてくれ」

 俺はこれから何を聞かされるんだ。先の見えないやり取りに俺だけがハラハラしているようだ。

「あの……みなさんの言うところの吸血鬼のオーラはまるで………能力を使っている時のナマエのオーラと瓜二つの様でした」





 飲み会から早々に切り上げマイホームに帰宅した私は、結っていた髪を解いて櫛を通す。その間、飲み会での出来事を思い出してみる。パトリックたちにからかわれてちらりとザップを見た時、確かに目が合って、彼の口は「すきだ」としっかりはっきり動いていた。不意打ちな行動を思い出して頭が茹ってしまいそうだ。

「……ザップのばか。」
「おい誰が馬鹿だクソナマエ」
「ひっ……!!ななななんで私の家に居るのよ!不法侵入か!!」
「ああ旦那から合鍵借りてきた。無断で」
「ああそれは所謂盗難というやつねさっさと出て行け」
「つれないこと言うなよ〜」

 襲ったりしねーって。と至極当然の発言を漏らしたザップは勝手にシャワールームへと消えて行った。横暴な彼のことだ。有無を言わさずきっと泊まっていくんだろう。私は盛大に溜息をついて予備のバスタオルを脱衣所に置いてキッチンに立つ。彼が出てくるまでには明日の朝食の仕込みぐらい終わるだろう。





「テレビ見ててもいいよって言ったのに」
「なんかワリー気がしたから付けなかった」

 あの後入れ違いにシャワールームに入って、ほこほこのまま部屋に戻れば、ザップはベッドに横になりながら置いてあった女性向け雑誌をぺらぺらとめくっていた。なんで泊まりはOKでテレビはNGなんだ。こいつと私の感性が違いすぎていまひとつ腑に落ちないけど、悩んだら負けだと思って飲み下すことにした。

「本当に何もしないの?」
「シてほしーのかよナマエ」
「……満更でもないけど今日はダメ。明日早いんだから」
「……ふーん、へぇ、ほぉ?言うようになったじゃねーか」
「キスもしてこないSS野郎に言われても嬉しくないんですけど」
「………あ゛?」

 おおう怖い怖い。露骨に機嫌が右肩下がりなザップを無視していつもと変わらない流れでパックをしながら明日の準備をする。明日はザップやお兄ちゃん、レオにエイブラムスさんがミッションで外出してしまうから、ギルベルトさんと執務室で留守番をするのが私のミッションだ。非日常が日常のHLだから、ライブラを空けるわけにはいかないのだ。

「……は?」
「なんだよ見せモンじゃねーぞ」

 パックを剥がしバッグのジッパーを閉め終えた瞬間のことだった。鏡に映っているのは、私の首筋に鼻を近づけてすんすんと嗅いでいるザップの姿。しばらくされるがままにしていると、ゆるりと腰に腕が回されてベッドに道連れにされた。あーだのうーだの言いながら顔を私の背中に擦り付けてくる姿はさながらマーキングの様だった。猿だけに。

「なに?ザップ」
「……無茶すんなよな」
「何言ってるの?明日出かけるのはザップたちじゃん。へんなの」
「一応だ一応。……何かあったらすぐ助けにいくからな」

 わけのわからないザップの忠告に曖昧な返答を返した。もしかして彼も私と同じ様に、何かざわつくものがあるんだろうか。私は明後日が平等に来ることを願って、そっと目をつぶった。

いっそ記憶なんかいらないのにな

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